質問者:
教員
マッツ
登録番号4353
登録日:2019-02-12
ブナの木などで、陰葉は陽葉に比べて一枚当たりの面積が大きいとのことですが、その理由を教えてください。
陰葉と陽葉の大きさ
マッツ 様
この質問コーナーをご利用くださりありがとうございます。
質問の内容を幾分広げることになるかと思いますが、回答文に示される(1)~(3)のような小問を設定し、東京大学の寺島一郎先生から回答をいただきました。
ご参考になさってください。
【寺島先生からの回答】
(1)この事実は普遍的なことでしょうか?
どの種でも必ずそうなるかと言われれば、自信はありません。しかし、ブナ以外の植物でも、陽葉よりは陰葉の方が大きいことが多いと思います。
(2)葉のサイズを変えるメカニズムは?
陽葉の方が陰葉よりも厚いことが知られています。柵状組織が厚くなることで葉が厚くなります。これには、柵状組織の細胞層数が多くなるタイプと、柵状組織の細胞が長くなるのみのタイプとがあります。陰葉の場合、細胞が分裂する際に葉の平面方向への垂層分裂が盛んに起こりますが、前者のタイプの陽葉では、葉の厚さ方向の並層分裂(長い細胞が真ん中から分裂)も起こります。この分裂のシグナルは、成熟葉からやってくることがわかっています。若い展開中の葉を暗くしておいても、成熟した葉が明るい光を受けると、若い葉の柵状組織の細胞が縦方向に分かれる並層分裂が起こります。後者のタイプでも、陰葉が垂層分裂によって盛んに展開するのに対し、陽葉では縦方向にも細胞が伸びます。これらの成長の違いが、厚くなるか、拡がるか、という違いを生んでいるようです。また、一般に陽葉は明るい乾燥しがちな場所にできるのに対し、陰葉は水分条件のよいところにできます。細胞の伸長による葉の展開には「水ぶくれ」の側面もありますので、水分条件のよい陰葉の方が拡がりやすいと言えます。表皮細胞のパターンなどを顕微鏡で見ると、展開の様子が実感できると思います。
(3)葉のサイズを変えることの生理的な意味は?
葉の機能として重要な光合成について考えてみます。弱い光でも広い面積で受けることでかなりの光合成生産を行うことができます。しかし、強い光のエネルギーを利用しようとすると、葉の面積あたりで、多くの葉緑体に光合成装置を詰め込まなければなりません。しかも、葉緑体がCO2をうまく利用できるようにするためには、葉緑体を配置するための内表面積を確保しなければなりません。これが陽葉が厚くなければならない理由です。弱い光を利用するために受光面積を大きくするか、強い光のエネルギーを利用できるようにするのか、これらには「あっちを立てればこっちが立たず」というトレードオフの関係があり、二つを同時に満足する解はありません。これが陽葉と陰葉が分化する生理的・生態的な意味でしょう。
この質問コーナーをご利用くださりありがとうございます。
質問の内容を幾分広げることになるかと思いますが、回答文に示される(1)~(3)のような小問を設定し、東京大学の寺島一郎先生から回答をいただきました。
ご参考になさってください。
【寺島先生からの回答】
(1)この事実は普遍的なことでしょうか?
どの種でも必ずそうなるかと言われれば、自信はありません。しかし、ブナ以外の植物でも、陽葉よりは陰葉の方が大きいことが多いと思います。
(2)葉のサイズを変えるメカニズムは?
陽葉の方が陰葉よりも厚いことが知られています。柵状組織が厚くなることで葉が厚くなります。これには、柵状組織の細胞層数が多くなるタイプと、柵状組織の細胞が長くなるのみのタイプとがあります。陰葉の場合、細胞が分裂する際に葉の平面方向への垂層分裂が盛んに起こりますが、前者のタイプの陽葉では、葉の厚さ方向の並層分裂(長い細胞が真ん中から分裂)も起こります。この分裂のシグナルは、成熟葉からやってくることがわかっています。若い展開中の葉を暗くしておいても、成熟した葉が明るい光を受けると、若い葉の柵状組織の細胞が縦方向に分かれる並層分裂が起こります。後者のタイプでも、陰葉が垂層分裂によって盛んに展開するのに対し、陽葉では縦方向にも細胞が伸びます。これらの成長の違いが、厚くなるか、拡がるか、という違いを生んでいるようです。また、一般に陽葉は明るい乾燥しがちな場所にできるのに対し、陰葉は水分条件のよいところにできます。細胞の伸長による葉の展開には「水ぶくれ」の側面もありますので、水分条件のよい陰葉の方が拡がりやすいと言えます。表皮細胞のパターンなどを顕微鏡で見ると、展開の様子が実感できると思います。
(3)葉のサイズを変えることの生理的な意味は?
葉の機能として重要な光合成について考えてみます。弱い光でも広い面積で受けることでかなりの光合成生産を行うことができます。しかし、強い光のエネルギーを利用しようとすると、葉の面積あたりで、多くの葉緑体に光合成装置を詰め込まなければなりません。しかも、葉緑体がCO2をうまく利用できるようにするためには、葉緑体を配置するための内表面積を確保しなければなりません。これが陽葉が厚くなければならない理由です。弱い光を利用するために受光面積を大きくするか、強い光のエネルギーを利用できるようにするのか、これらには「あっちを立てればこっちが立たず」というトレードオフの関係があり、二つを同時に満足する解はありません。これが陽葉と陰葉が分化する生理的・生態的な意味でしょう。
寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2019-03-02
佐藤 公行
回答日:2019-03-02