一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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除塩について

質問者:   会社員   rin147258
登録番号4363   登録日:2019-03-04
現在、除塩について調べています。
どのぐらいの濃度までNaとClが減少したら除塩できたといえるのか。もしくは、野菜(コマツナ、ホウレンソウなど)のNaとCl濃度の基準値を知りたいです。
rin147258さん

 高濃度の食塩(またはNa+、Cl-)は多くの植物にとって有害ですが、その程度は植物種によって異なります。また、マングローブのように、生育に高濃度の塩分を必要とするものもあります。この問題に関心を持つ人も多いようで、みんなのひろば「植物Q&A」で、「耐塩性」で検索すると多くの回答例が出てきます。中でも、登録番号0578「植物の耐塩性について」、登録番号0484「ナトリウムの吸収率」は役に立つと思います。さて、「除塩」に関する質問ですが、耐塩性は植物の種や品種、生育段階によってさまざまです。この質問に対する回答を、植物の土壌環境ストレスについて研究されている且原真木博士(岡山大学資源植物科学研究所教授)にお願いいたしました。

【且原先生のご回答】
塩類が集積した土壌では作物の生育障害がおこります。生育障害が生じない程度に塩類濃度を下げることが除塩です。塩類濃度による障害の程度は作物の種類によって異なり、また土壌によっても異なります。土壌塩類の測定法方法もいくつかあります。
正確に答えるなら、どのくらい除塩すべきかは現場の土壌と作物に応じて個別に判断するしかなく、「どの程度か」を一概に言えない、となります。ただ、これでは漠然としすぎているので、もう少し一般的なところを述べます。
塩類土壌を議論するときに、乾土に対して5倍量の水を加えた浸出液の電気伝導度(EC, 1:5以下EC)の値がよく用いられます。NaClに限らず塩類(無機イオン)が増えるとECの値が上昇します。適正な施肥がされている状態では0.5 mS/cm(ミリシーメンス/cm)程度ですが、この値が2以上になると除塩が必須とされています(土壌肥料学事典(農文協))。このECを測定する装置は(高価なものもありますが)Ⅰ万円前後で比較的手軽に購入でき、農業現場でも使われています。このECが2mS/cmに相当するNaCl溶液(他のイオンがない場合)は0.1%(weight/volume)に相当します(HORIBAのHPなどに掲載されています)。実施には作物ごとの耐塩性の強弱によって、この除塩の目安は異なってきます。ホウレンソウでは目安としてのEC値が1.0とされています(高塩分濃度土壌の除塩対策 - 農林水産技術会議(http://www.affrc.maff.go.jp/docs/pdf/engai_dozyo_zyoen_kumamoto_pref.pdf))これは純粋なNaCl溶液としては0.05%、もし肥料分が0.5mS/cmあると仮定すると過剰なNaClは0.5mS/cm(0.025%)相当となります。
繰り返しになりますが、厳密には土壌により、また同じ作物でも品種により同じ塩類集積の条件(EC値)でも生育は異なってくるものであることにご注意ください。
電気伝導度で測定する場合は、NaとClに区別する必要がないので汎用性が高いです。
NaとClを区別する必要がある場合は、土壌浸出液あるいは土壌そのものをNa濃度測定器、Cl濃度測定器あるいはイオン分析装置で測定することになります。作物に生育障害が生じ栽培限界域の土壌Cl濃度としては、ホウレンソウで70mg/100g(土壌)とのデータがあります(http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/sekkei/pdf/110624-01.pdfの7ページ)。土壌中の陽イオンと陰イオンの組成によって土壌中のNaとClの濃度が同じとはかぎらず、また植物の種類によって生育障害がおこるNa濃度はCl濃度と異なる場合が知られていますが、このようなNaの生育限界濃度を作物別に網羅的に調べているデータはあまり見当たりません。


且原 真木(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2019-03-23