一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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果物の糖化や褐変化について

質問者:   会社員   DM
登録番号4371   登録日:2019-03-18
生の果物が糖化あるいは褐変化しない理由について教えてください。


私は血糖値が高いことから、糖化について興味を持っています。
そこで、色々と調べまして糖分とタンパクが反応して糖化(=褐変化)するということまではわかりました。

そこで疑問に思ったのですが、果実等が褐変化しないのはなぜでしょうか?

自宅で食べるオレンジやリンゴの生果は褐変しておらず、
いつ切っても鮮やかな色をしています。
オレンジやリンゴの中にも糖分やタンパクはあると思うのですが、、、、

初歩的な内容かもしれませんが、
ご回答のほど宜しくお願いいたします。
DM様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。以下のご質問にお答えいたします。
糖化という言葉は、生物学や生化学関係ではふつうデンプンなどの多糖類がで酵素反応で加水分解され、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などに分解されることを指します(Ssccharification)が、ご質問の中の糖化(Glycation)という言葉は、食品科学、栄養科学及び関連医学の分野でよく扱われる非酵素的化学反応を指しています。すでにいろいろご自分で調べられておられることと思いますが、まずこの糖化のことを概略説明しておきます。ここでいう糖化とは、タンパク質を構成しているアミノ酸のアミノ残基(あるいは脂質、核酸)とグルコースのような還元糖との間で不可逆的に起きる化学反応のことで、有機化学で知られているメイラード(Maillard) 反応に基づいています。つまり、アミノ基(ーNH2) とグルコースのアルデヒド基(ーCHO)やフルクトースのケトン基(>C=O)と反応して褐色の精製物を生じる反応です。単一の反応ではなく複雑な連続反応の結果、褐変した最終糖化産物(advanced glycation end products, AGEs:メラノイジンともよばれている) ができます。人体によくない影響、例えば糖尿病、脳や皮膚の老化など加齢の促進などに影響を与えるとして、近年よく取り上げられているようですね。メイラード反応は反応の材料となる物質(タンパク質や糖)の濃度が高い、温度が高い、pHがアルカリ性に近いなどの条件で反応は促進されます。一般に加工した(特に加熱した)食品は多量のAGEsを含みます。もちろん熱を加える料理もその量を増加させます。生肉などにもかなりの量が含まれるので、料理をしなくても食材にはある程度AGEsが含まれてまれているようです。人がAGEsを体内に蓄積するのは専ら食品を通してのようですが、最近の研究では、体内でも少量ではあるが、AGEsが合成されていると報告されています。これらのことを考えると、植物でも体内にAGEs を蓄積していることも考えられます。そのような研究報告はないかと調べてみましたが、残念ながら明確な報告はありませんでした。ただ、下記に挙げる論文(*)には 多種類(350種以上)の食品、料理、材料などについて、AGEs含量を調べた結果が報告されていました。それによると、アーモンド、カシュウナッツ、クリ、ピーナッツ、クルミ、ヒマワリなどの種子はかなり多量に含まれています。いずれもローストした(熱を加えた)ものはさらに高い含量を示していました。アヴォカドやオリーブにもかなりあります。果実(くだもの)はどうかというと、ジュース(リンゴ、クランベリー、オレンジなど)でしか調べてありませんが、いずれも極めて僅かではあるが含まれています。しかし、量が少ないと組織が褐色に見えることはありません。ついでですが、植物組織は、特に果実などの場合には皮をむいたり、傷つけたりすると褐色を呈することがよくあります。これはメイラード反応ではなく、植物の組織中に多く含まれるポリフェノールがポリフェノールオキシダーゼという酵素で酸化されて生じる酵素反応の結果です。(本コーナーで「褐変」で検索してください。関連の質問・回答が多数あります。)

これは憶測ですが、果実などにはなぜAGEsがほとんどないかということはわかりませんが、なぜかメイラード反応が起きにくいのでしょうね。最近Anti-AGEs substance (抗AGEs物質)がいろいろな植物から単離されていますので、そういう化合物があるので植物にはAEGsが ほとんどない(種子などは別として)のかもしれません。


*J.Uribarri et al. Advanced glycation end products in foods and a practical guide to their reduction in the diet. J. Amer. Diet Assoc. (2010) 110(6):911-918
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20497781


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-03-23