一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の生育と夜温との関係

質問者:   高校生   ryou
登録番号4372   登録日:2019-03-18
植物の生育は、光合成適温の25℃くらいまでなら温度(昼温)が高いほど旺盛になります。しかし、昼温が25℃と仮定した場合、夜温(暗黒で光合成ができない)が25℃と10℃で比較すると10℃の生育が抑制されますが、この作用機構はどのように考えたらよいのでしょうか。
ryouさん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
「植物」の生育に対する昼温と夜温の影響に関する質問ですが、生育に最適な昼温と夜温は植物種ごとに、また、同じ種でも品種ごとに異なるでしょう。
植物細胞は、葉緑体のほかに、細胞質ゾル、ミトコンドリア、液胞などから成っています。細胞の生育には、タンパク質、糖質、脂質、色素などさまざまな物質の合成が必要です。合成反応には有機物の素材のほかに、ATPなどの高エネルギー物質が必要です。ATPは、合成反応だけでなく、物質の移動(糖類の輸送や栄養塩類の吸収など)にも使われます。ATPは、葉緑体では光エネルギーを利用した光リン酸化反応によって合成され、炭素の同化反応などに使われます。光合成に必要な還元力は、水の分解反応により供給され、反応に付随してO2が発生します。他方、細胞質ゾルで行われるタンパク質合成、多糖類合成などにもATPが必要ですが、こちらは主としてミトコンドリア呼吸(酸化的リン酸化反応といい、O2の吸収を伴う)により供給されます。旺盛に生育している植物では、呼吸によって吸収されるO2は、多くの場合、光合成によって放出されるO2の1/10かそれ以下だと見積もられています。
植物の生育の適温は、植物により、また同じ植物でも生育段階により異なります。イネでは、生育期に、夜の温度を20℃から30℃にわたって変化させたとき、茎葉の成長は、温度が高いほど高かったという報告があります。他方、種子の形成期(幼穂形成と穂ばらみ期)では、夜の温度が高いほどコメの収穫量が低かったという報告もあります。夜の温度が高いとなぜ収穫量が低くなるかについて、詳しい理由はまだ分かっていません。温度と収穫量の関係は、栽培品種によっても異なるでしょうが、日本各地のコメの単位面積当たりの収穫量を比較したとき、平均気温の高い日本の南西部が必ずしも収穫量が高くないという事実も、後者の報告から考えてもっともだと思われます。地球規模の話では、人類の活動増大により、大気中の温室効果ガス濃度が上昇し、地球の温暖化が起こることが懸念されています。温暖化の影響は、一方ではコメ栽培可能域の増大につながるが、他方、現在の主要産地では収穫量をかえって低下するという予測もあります。


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-04-05
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