質問者:
一般
ドリー
登録番号4375
登録日:2019-03-25
ダイズを観察していると、花が咲いた後、ペチャンコの莢ができ、徐々に莢が膨らみ枝豆となります。その後、莢が枯れてダイズができます。みんなのひろば
ダイズの種子が太る仕組み
莢の中の種子の養分は、何処から送られて来るのでしょうか。二通りを考えましたが、どちらが正しいですか。
1.莢自体の光合成でできた糖を原料として、デンプンやタンパク質や油を作っている。
2.葉に貯まっている糖やタンパク質などを分解して、茎を通して莢に送り、莢で再び合成している。
また、枝豆とダイズでは、水分を除いた成分は同じですか。
ドリー様
みんなのひろば植物Q&A のコーナーをご利用下さりありがとうございます。
回答はダイズの窒素固定や代謝の研究で素晴らしい成果を挙げておられる大山先生にお願いしました。
たいへん詳しく解説して下さいました。
【大山先生の回答】
ドリーさん。ダイズの子実が太る仕組みについてご質問頂きありがとうございます。
ダイズを原料とする豆腐、納豆、味噌、醤油などは、日本食の基本となる食材としてまた、健康を促進する食品として注目を集めていますが、ダイズの種子に栄養を貯める仕組みや、枝豆とダイズの違いについてあまり紹介されていません。最近は、枝豆がダイズであることを知らない学生もいます。
最初のご質問の答えですが、結論から言うと、1. 莢自体の光合成産物の利用と、2.葉から輸送される成分の利用の「どちらも正解」です。
一般に葉の光合成に比べて、莢や種子、茎などの光合成については、あまり調べられていません(園池公毅2012)。基本的には、植物の緑色をした部分はクロロフィルを持っており、多かれ少なかれ光合成をしていると考えられています。
ダイズの莢と葉の光合成活性について調べた研究(Andrews, A.K. and Svec, L.V.,1975)によると、ダイズは莢でも光合成をしていますが、新鮮重で比べると、莢の光合成活性は、葉の1/7程度でした。子実が大きくなる時期の莢の新鮮重は、葉の新鮮重より少ないことから、株全体の莢の光合成の寄与率は、数%程度と考えられます。
ただし、全く意味がないかというと、ダイズの子実が呼吸した二酸化炭素を回収する役目などがあるとも言われています。
二つ目のご質問、「枝豆とダイズでは、水分を除いた成分は同じですか。」については、タンパク質、脂質、炭水化物、灰分は、ほぼ同じですが、成分については違いがあります。枝豆は未熟なダイズの子実で水分を72%程度含み、茹でて野菜として食べますが、黄色く丸い普通のダイズ(水分含有率12.5%)は完熟した子実です。ですから、基本的には植物種としては枝豆もダイズもおなじ種です。ただし、枝豆用品種としては香りや味が良い品種が選抜され使われています。
ダイズの完熟種子の成分は、食品成分表にも出ていますが、水分12.5%、タンパク質約35%、脂質約20%、炭水化物約30%、灰分約5%を含んでいます。水分を除いた乾物あたりの成分濃度は、完熟ダイズでは、タンパク質約40%、脂質約23%、炭水化物約34%、灰分約5.7%になります。枝豆では、水分71.7%、タンパク質約11.7%、脂質約6.2%、炭水化物約8.8%、灰分約1.6%ですので、水を除いて乾物あたりにすると、タンパク質約41%、脂質約22%、炭水化物約31%、灰分約5.7%で、濃度にするとほぼ同程度ですが、成分的には異なります。
ダイズの種子貯蔵成分の特徴は、タンパク質と脂質と灰分の含有量が高いことです。「畑の肉」とも言われるゆえんです。タンパク質と、脂質は、子葉細胞の中の専用の袋(タンパク質はプロテインボディ、脂質はオイルボディ)に分けて貯蔵されます。細胞質から隔離するため、これほど高い濃度で貯めることができるのですね。
もう一つのダイズ種子成分の特徴は、コメなどでは種子の主成分であるデンプンを含まないことです。枝豆では、約10%程度のデンプンを含んでいるため、食べるとホクホクした食感がありますが、登熟するにつれて、デンプンが分解し、タンパク質と脂質に変化していきます。
一つ目の質問にも関連しますが、ダイズは、花が咲いた後、莢が大きくなり、その後、子実が太っていきます。子実は、子葉、幼根、胚軸からなり、種皮に包まれています。葉からの光合成産物(主にスクロース)や葉のタンパク質分解などに由来するアミノ酸(アスパラギン)、根粒からの窒素固定産物(アラントイン、アラントイン酸)、リンなどの養分は、莢の両側にある維管束(導管と篩管を含む)を通って、へそから種皮に渡されます(大山卓爾、2000)。種皮と子実は、維管束でつながっておらず、維管束で運ばれてきた養分は一旦、種皮内に分泌されます。それを子葉が吸収して、自立して成長するとともに、貯蔵養分を蓄えます。人間の赤ちゃんは臍の緒でつながっていますが、ダイズの子実は、直接莢とつながってはいないのです。余談ですが、未熟な子葉を莢から切り出して、糖やアミノ酸などの養分を与えると試験管で太らせることができます。
(参考文献)
園池公毅、果実の光合成、光合成研究、22(2)2012
Andrews, A.K. and Svec, L.V., Photosynthetic activity of soybean pods at different growth stages compared to leaves. Can. J. Plant Sci., 55, 501-505, 1975.
大山卓爾、ダイズ栽培の基礎理論、農業技術大系、作物編6(追録22)、2000.
みんなのひろば植物Q&A のコーナーをご利用下さりありがとうございます。
回答はダイズの窒素固定や代謝の研究で素晴らしい成果を挙げておられる大山先生にお願いしました。
たいへん詳しく解説して下さいました。
【大山先生の回答】
ドリーさん。ダイズの子実が太る仕組みについてご質問頂きありがとうございます。
ダイズを原料とする豆腐、納豆、味噌、醤油などは、日本食の基本となる食材としてまた、健康を促進する食品として注目を集めていますが、ダイズの種子に栄養を貯める仕組みや、枝豆とダイズの違いについてあまり紹介されていません。最近は、枝豆がダイズであることを知らない学生もいます。
最初のご質問の答えですが、結論から言うと、1. 莢自体の光合成産物の利用と、2.葉から輸送される成分の利用の「どちらも正解」です。
一般に葉の光合成に比べて、莢や種子、茎などの光合成については、あまり調べられていません(園池公毅2012)。基本的には、植物の緑色をした部分はクロロフィルを持っており、多かれ少なかれ光合成をしていると考えられています。
ダイズの莢と葉の光合成活性について調べた研究(Andrews, A.K. and Svec, L.V.,1975)によると、ダイズは莢でも光合成をしていますが、新鮮重で比べると、莢の光合成活性は、葉の1/7程度でした。子実が大きくなる時期の莢の新鮮重は、葉の新鮮重より少ないことから、株全体の莢の光合成の寄与率は、数%程度と考えられます。
ただし、全く意味がないかというと、ダイズの子実が呼吸した二酸化炭素を回収する役目などがあるとも言われています。
二つ目のご質問、「枝豆とダイズでは、水分を除いた成分は同じですか。」については、タンパク質、脂質、炭水化物、灰分は、ほぼ同じですが、成分については違いがあります。枝豆は未熟なダイズの子実で水分を72%程度含み、茹でて野菜として食べますが、黄色く丸い普通のダイズ(水分含有率12.5%)は完熟した子実です。ですから、基本的には植物種としては枝豆もダイズもおなじ種です。ただし、枝豆用品種としては香りや味が良い品種が選抜され使われています。
ダイズの完熟種子の成分は、食品成分表にも出ていますが、水分12.5%、タンパク質約35%、脂質約20%、炭水化物約30%、灰分約5%を含んでいます。水分を除いた乾物あたりの成分濃度は、完熟ダイズでは、タンパク質約40%、脂質約23%、炭水化物約34%、灰分約5.7%になります。枝豆では、水分71.7%、タンパク質約11.7%、脂質約6.2%、炭水化物約8.8%、灰分約1.6%ですので、水を除いて乾物あたりにすると、タンパク質約41%、脂質約22%、炭水化物約31%、灰分約5.7%で、濃度にするとほぼ同程度ですが、成分的には異なります。
ダイズの種子貯蔵成分の特徴は、タンパク質と脂質と灰分の含有量が高いことです。「畑の肉」とも言われるゆえんです。タンパク質と、脂質は、子葉細胞の中の専用の袋(タンパク質はプロテインボディ、脂質はオイルボディ)に分けて貯蔵されます。細胞質から隔離するため、これほど高い濃度で貯めることができるのですね。
もう一つのダイズ種子成分の特徴は、コメなどでは種子の主成分であるデンプンを含まないことです。枝豆では、約10%程度のデンプンを含んでいるため、食べるとホクホクした食感がありますが、登熟するにつれて、デンプンが分解し、タンパク質と脂質に変化していきます。
一つ目の質問にも関連しますが、ダイズは、花が咲いた後、莢が大きくなり、その後、子実が太っていきます。子実は、子葉、幼根、胚軸からなり、種皮に包まれています。葉からの光合成産物(主にスクロース)や葉のタンパク質分解などに由来するアミノ酸(アスパラギン)、根粒からの窒素固定産物(アラントイン、アラントイン酸)、リンなどの養分は、莢の両側にある維管束(導管と篩管を含む)を通って、へそから種皮に渡されます(大山卓爾、2000)。種皮と子実は、維管束でつながっておらず、維管束で運ばれてきた養分は一旦、種皮内に分泌されます。それを子葉が吸収して、自立して成長するとともに、貯蔵養分を蓄えます。人間の赤ちゃんは臍の緒でつながっていますが、ダイズの子実は、直接莢とつながってはいないのです。余談ですが、未熟な子葉を莢から切り出して、糖やアミノ酸などの養分を与えると試験管で太らせることができます。
(参考文献)
園池公毅、果実の光合成、光合成研究、22(2)2012
Andrews, A.K. and Svec, L.V., Photosynthetic activity of soybean pods at different growth stages compared to leaves. Can. J. Plant Sci., 55, 501-505, 1975.
大山卓爾、ダイズ栽培の基礎理論、農業技術大系、作物編6(追録22)、2000.
大山 卓爾(東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2019-04-08
庄野 邦彦
回答日:2019-04-08