一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉呼吸と根呼吸

質問者:   一般   山口 昇
登録番号4377   登録日:2019-03-28
温暖化において、炭素循環の規模・数値の大きさに興味を持ちました。
この中で土壌呼吸ですが、微生物呼吸・根呼吸については勉強不足でした。
植物の呼吸には葉呼吸・根呼吸がありますが、葉/根呼吸の割合はどの程度でしょうか。又、根呼吸には葉から排出される量は含まれているのでしょうか、土壌域からのみでしょうか。
根呼吸の炭素排出は年間約233億トン炭素量が推定されると、
記述がりましたが、土壌から炭酸ガスとして全量排出されるのでしょうか、又、気体状態ではなく、一部は有機質として土壌に蓄積されるのでしょうか。
以上よろしくお願いいたします。
山口 昇 様

この質問コーナーをご利用くださりありがとうございます。
地球規模での炭素循環の問題に興味を持たれたとのこと、この議論での「根呼吸」とは地下(土壌域)に埋まっている部分による呼吸、「葉呼吸」とは地上に表れている部分による呼吸であると定義されることになると思います(植物学の表現上では、「気根」や「地下茎」の場合などの区分けが気になりますが)。

根における呼吸とは、地上部から輸送されて来る呼吸基質としての有機化合物が酸素により分解されてエネルギーが取り出される代謝過程で、その規模の見積もりは酸素の吸収量や二酸化炭素の放出量に基づいてなされるのが一般的です。ところで、根で営まれる呼吸により発生する二酸化炭素は、根の表層部分から土壌域へ直接排出される場合と、体内の維管束組織を通って輸送されて地上部から大気中に排出される場合があります(本質問コーナーの登録番号1130や登録番号1625参照)。したがって、上の定義による「根呼吸」には、根が発生の起源であっても地上部から放出される部分は含まれていないことになります。呼吸における地上部と地下部の関係は非常に深く、その関係は植物の種類や生育環境(土壌の状態や温度・湿度など)に大きく依存し、一日の間にも大きく変動しているようです。このため、「根呼吸」としての炭素循環の規模を見積もることは、どのようなレベルで行われるかにもよりますが、かなり難しいことのように思えます。具体的な標本区についての信頼できる実測値を基に、多くの変数については推測を行うことで膨大な計算がなされ、グローバルなレベルでの数値が算出されることになるかと思いますが、このような包括的な問題には国際的な取り組みがなされており、日本においては国立環境研究所(炭素循環に関連する研究部門)などの機関が関係している模様です。お寄せくださった具体的なご質問に対して私は数値を挙げて説明することは出来ませんので、先ずはそのような専門機関の研究者から情報を得られることをお勧めいたします。

なお、根の呼吸によって放出された二酸化炭素の一部が有機化合物に変換されて土壌中に蓄積されることは、先ずは除外しておいても良いのではないでしょうか。他方で、「土壌呼吸」への微生物の寄与は、土壌の条件によっては極めて甚大で、地球温暖化に伴うこの過程の増大がグローバルな炭素循環を考える上で大きな問題となっているようです。また、条件によっては地下域での生物過程としての発酵や非生物的なガス発生・消費などの過程にも注意を払う必要があるものと思います。

以上、関係する問題について定性的な説明をした上で、関連機関の一つを紹介することで、回答とさせていただきます。




佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-04-04
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