質問者:
その他
中西
登録番号0438
登録日:2005-12-07
植物の細胞死についてお聞きしたいのですが、病原体感染などによる植物の細胞死は液胞の破壊から行われるそうなのですが、液胞が破壊されると細胞は必ず死んでしまうのでしょうか?みんなのひろば
植物細胞死について教えて下さい。
また、細胞死は病原体の侵入しようとした細胞にのみおこるのですか?
周りの細胞には何の影響も及ぼさないものなのでしょうか?
質問ばかりなのですが、よろしくお願い致します。
中西さん:
植物においても細胞死が、形づくりや分化、病害抵抗性などに関与していることから近年では非常に活発に研究が行われています。生きている細胞が「死ぬ」ことはあまり良いイメージを与えませんが、ある器官の形成過程で特定の細胞群が死ぬことによってはじめてその器官の形成が完成したり、一部の細胞が死ぬことで個体の生存をはかったりすることなどを考えると植物の生存にとって重要な働きともなっているものです。したがって細胞死にはいろいろな型があり、とても大きな問題を含むものです。ここでは、ご質問にしたがい液胞の関与を中心とした細胞死についてお答えします。細胞死は病原体が生産した毒素や近年では環境汚染物質などで「殺されて」しまう場合と違い、遺伝的にプログラムされた積極的な死の過程で「プログラムされた細胞死Programmed Cell Death PCD」と呼ばれています。つまり、ある一定の条件が与えられるとその細胞は自分で細胞を破壊するように遺伝子発現のプログラムを変更します。そして植物における細胞死の直接原因は液胞の崩壊で、たくさんの分解酵素やイオンなどが放出されて直ちに細胞は恒常性を失います(この時点で細胞死がおきたといえます)その後に細胞内容物の凝縮重合がおきたり、全面的分解がおきたりします。病原菌の感染による細胞死は過敏感死(過敏感反応死、HR)として植物病理学分野では古くから抵抗反応の一つとして知られていました。植物宿主と病原菌との関係は複雑ですが、ある系統の病原菌に対し宿主側には抵抗性を示す系統、感受性を示す系統などがあり、過敏感細胞死は抵抗性を示す系統に感染したときにおこります。巨視的には、病原菌に侵入された細胞とその隣接周辺細胞も細胞死をおこす結果、細胞の恒常性が失われ内容物の凝縮・酸化・重合反応が起きて褐色斑が出来ます。このような反応がおこると病原菌の侵入が局所的に抑えられるばかりでなく、まだ感染を受けていない健全な部分にも抵抗性が発現し、個体全体が代謝的に次の感染に強い抵抗性を示すようになります。
病原菌に感染したらどうして細胞は死ぬのか? 最近、京都大学の先生によってその答えの一つがはっきりしてきました。宿主細胞が感染信号を感知すると複雑な信号伝達過程を経て一連の遺伝子群が発現しはじめます。その中に「液胞タンパク質加工酵素 Vacuolar Processing Enzyme VPE」遺伝子があり、VPEが液胞内に移行して、液胞内の不活性型各種分解酵素を「加工し」活性型に変換することが明らかにされたのです。液胞内にはたくさんの分解酵素がありますが液胞膜で細胞質から隔離されています。その中には不活性型の状態にあり、液胞内に輸送されたVPEの働きで「加工」されて活性型酵素になるものもあります。この活性化された一部の酵素が液胞膜を破壊して、液胞内に安全に隔離されていた液胞内容物が放出され細胞死にいたることがはっきりしたのです。
まったく違った局面で液胞の崩壊が細胞をもたらしている例は、導管の形成に見られます。ご存じのように導管は堅い細胞壁の残骸で囲まれた管で、死んだ細胞がつながったものです。詳しいことは省きますが、導管要素細胞が最後に液胞の崩壊で死んで管状につながったものです。植物細胞の液胞は、生きる活動をしている細胞質の恒常性を保つのに重要な働きをしています。細胞質におけるイオン濃度、pH、糖・アミノ酸・有機酸などの濃度を調節したり、細胞質で不要になった物質を取り込んで分解したりするのでたくさんの分解酵素ももっています。ですから何らかの原因でこのような液胞膜が壊れて内容物が細胞質と混じり合えばその細胞は直ちに死に至ることになります。
植物においても細胞死が、形づくりや分化、病害抵抗性などに関与していることから近年では非常に活発に研究が行われています。生きている細胞が「死ぬ」ことはあまり良いイメージを与えませんが、ある器官の形成過程で特定の細胞群が死ぬことによってはじめてその器官の形成が完成したり、一部の細胞が死ぬことで個体の生存をはかったりすることなどを考えると植物の生存にとって重要な働きともなっているものです。したがって細胞死にはいろいろな型があり、とても大きな問題を含むものです。ここでは、ご質問にしたがい液胞の関与を中心とした細胞死についてお答えします。細胞死は病原体が生産した毒素や近年では環境汚染物質などで「殺されて」しまう場合と違い、遺伝的にプログラムされた積極的な死の過程で「プログラムされた細胞死Programmed Cell Death PCD」と呼ばれています。つまり、ある一定の条件が与えられるとその細胞は自分で細胞を破壊するように遺伝子発現のプログラムを変更します。そして植物における細胞死の直接原因は液胞の崩壊で、たくさんの分解酵素やイオンなどが放出されて直ちに細胞は恒常性を失います(この時点で細胞死がおきたといえます)その後に細胞内容物の凝縮重合がおきたり、全面的分解がおきたりします。病原菌の感染による細胞死は過敏感死(過敏感反応死、HR)として植物病理学分野では古くから抵抗反応の一つとして知られていました。植物宿主と病原菌との関係は複雑ですが、ある系統の病原菌に対し宿主側には抵抗性を示す系統、感受性を示す系統などがあり、過敏感細胞死は抵抗性を示す系統に感染したときにおこります。巨視的には、病原菌に侵入された細胞とその隣接周辺細胞も細胞死をおこす結果、細胞の恒常性が失われ内容物の凝縮・酸化・重合反応が起きて褐色斑が出来ます。このような反応がおこると病原菌の侵入が局所的に抑えられるばかりでなく、まだ感染を受けていない健全な部分にも抵抗性が発現し、個体全体が代謝的に次の感染に強い抵抗性を示すようになります。
病原菌に感染したらどうして細胞は死ぬのか? 最近、京都大学の先生によってその答えの一つがはっきりしてきました。宿主細胞が感染信号を感知すると複雑な信号伝達過程を経て一連の遺伝子群が発現しはじめます。その中に「液胞タンパク質加工酵素 Vacuolar Processing Enzyme VPE」遺伝子があり、VPEが液胞内に移行して、液胞内の不活性型各種分解酵素を「加工し」活性型に変換することが明らかにされたのです。液胞内にはたくさんの分解酵素がありますが液胞膜で細胞質から隔離されています。その中には不活性型の状態にあり、液胞内に輸送されたVPEの働きで「加工」されて活性型酵素になるものもあります。この活性化された一部の酵素が液胞膜を破壊して、液胞内に安全に隔離されていた液胞内容物が放出され細胞死にいたることがはっきりしたのです。
まったく違った局面で液胞の崩壊が細胞をもたらしている例は、導管の形成に見られます。ご存じのように導管は堅い細胞壁の残骸で囲まれた管で、死んだ細胞がつながったものです。詳しいことは省きますが、導管要素細胞が最後に液胞の崩壊で死んで管状につながったものです。植物細胞の液胞は、生きる活動をしている細胞質の恒常性を保つのに重要な働きをしています。細胞質におけるイオン濃度、pH、糖・アミノ酸・有機酸などの濃度を調節したり、細胞質で不要になった物質を取り込んで分解したりするのでたくさんの分解酵素ももっています。ですから何らかの原因でこのような液胞膜が壊れて内容物が細胞質と混じり合えばその細胞は直ちに死に至ることになります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2005-12-19
今関 英雅
回答日:2005-12-19