質問者:
会社員
へちま
登録番号4385
登録日:2019-04-05
自分は植物や生物学は全くの専門外なのですが、植物のシミュレーションに興味があり、種子の発芽を数学的に表したく、種子の休眠について調べています。みんなのひろば
植物ホルモンによる休眠について
一次休眠、二次休眠、環境休眠や、自発休眠、強制休眠などをざっと調べましたが、生理学的な書かれ方をしていくことが多く、数学的にまとめられている文献を発掘できませんでした。
素人ながら、個人的に以下に発芽できない要因をまとめてみました。
①胚が形態的に未熟
②胚が生理的未熟(・芽は低温で目覚めるが根の成長に高温が必要なので、高温→低温でないと発芽しない・種子に発芽抑制物質が含まれており、物質が抑制または除去されないと発芽しない など)
③種皮が水や気体を通さない(種皮の耐久性が落ち、剥がれ落ちる必要があるなど)
④種皮が水や気体は通すが硬くて芽が出てこれない(柔らかくなったら出てこれるなど)
⑤上記すべてをクリアしていても、環境的に成長可能でない。
一般に休眠と呼ばれている部分は①~④なのだと思いました。
また、⑤を継続すると、二次休眠に突入するものと理解しました。
なので、①~④をそれぞれクリアしてかつ⑤をクリアした時に発芽する、という風にしたいのですが、ここで気になる点があります。
まず、成長阻害物質がない。あるいは、②のような胚や芽自身の休眠が存在しない植物は存在するのでしょうか?
また、成長阻害物質が種子内に存在しないとき、①③④⑤の条件がそろいさえすれば、すぐに発芽できるものなのでしょうか?
もしそうだと仮定すると、①③④による一次休眠をクリアした後、二次休眠に入ることのない種子も存在するのでしょうか?
②の部分を、成長阻害物質や促進物質(GAやABAやエチレンや酸素)の量によってコントロールするということもやってみたいのですが、ここは研究段階で未解明の部分が多いようでしたので、まずは①③④をやってみたいと思っています。ですがあまりに自分が素人で②の知識に欠けているので、ご教授願いたいです。
よろしくお願いします。
へちまさん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
植物は、種子を作ることにより、次世代に命を引き継ぎ、また生育地域を拡大することができました。植物の生育環境は、地理的には山、平原、川など、土質は粘土、シルト、砂、礫などと多様で、気候も熱帯、温帯等、降水量の多少とまことに多様です。植物はこれらの環境下で、非常に長期にわたって命の糸をつないできました。スポーツにいろいろな競技種目があり、大会のレベルや入賞ランクも色々であるように、現存の植物は、それぞれの得意技を生かして、あるものはその地域で優占種となり、あるものはニッチェ(生活のための隙間)で細々と生き続けています。
質問の、種子の発芽と休眠に関しても、植物の適応戦略は植物ごとに異なります。適応の結果、季節がある地域に生育する植物では、花をつけ、種子を作り、発芽する時期が、春、夏、秋、冬(早春)と、種ごとにほぼ決まっています。種子の休眠によって生育に不適当な時期を乗り越え、適当な時期に休眠が打破されて発芽し、成長、開花、結実に至りますが、同じ地域に生きる植物との生存競争に打ち勝ち、草食動物の食害からも身を守り、次世代のための種子を作らなければなりません。植物をとりまく生育環境が多様であるように、休眠、発芽の時期の選択の戦略も多様で、似たような戦略をとっているものは多くあるにせよ、すべての植物に当てはまるような一般的スキームはありません。なお、種子は、運搬されることにより生育域の拡大にも役立ちます。
発芽時期の選択には様々な戦略がありますが、一群の植物については、下記の例のように、その機構が相当程度明らかになっているものもあります。
A:ホルモンのバランスによる休眠とその打破
「植物Q&A」で、「休眠」、「種子」で検索し、たとえば、登録番号0341,0635,0914,1183,1414等多数。(アブシジン酸、ジベレリンが頻繁に出てきます)
B:同様に「光発芽」で検索し、例えば、登録番号0847等
フィトクロムという色素タンパク質が光の質を判定している。葉はクロロフィルにより赤色光(R)をよく吸収するが近赤外光(IR)はそれほど吸収しない。種子が受ける光でR:IRの比が高ければ上空に他の植物の葉が少ないことの、比が低ければ葉が多いことの信号となる。前者の場合は発芽し順調に生育できるが、後者の場合は、他の植物に邪魔をされて光合成に有効な光が十分には得られず、発芽しても次世代の種子をつけない内に貯蔵物質が枯渇する可能性が高い。
C:インターネットで「種子」、「休眠」、「発芽」で検索
いろいろな情報が多数得られます。一例をあげると、種子のサイズは、栽培植物ではコメ、アズキなどは粒ぞろいですが、これは人為的な選択の結果です。雑草は、同種で似たような場所に生育するものでも、開花結実の時期や種子のサイズがバラバラです。同じサイズのものが一斉に発芽すると、降雪、干ばつ、山火事、草食動物による大規模食害などによって地域一帯の同種植物が全滅する危険性があります。種子のサイズが違い、発芽、開花、結実などのサイクルが多少異なっていれば、その中の少数のものは逆境を生き延びて種子を残す可能性が高くなります。このようにして、自然界で何万年、何十万年と命をつぐことができたと考えられます。
D:インターネットで「二次休眠」で検索
雑草の繁殖戦略に関する報告が見つけられる。
なお、質問①-⑤については、上述のように、植物によっていろいろな例があり、一般化は困難なので、一部についてお答えします。質問「成長阻害物質がない。あるいは、②のような胚や芽自身の休眠が存在しない植物は存在するのでしょうか?」に関しては:成長阻害物質がないと、親植物の花の中で発芽することを防ぐことができません。
また、質問「④種皮が水や気体は通すが硬くて芽が出てこれない(柔らかくなったら出てこれるなど)、質問「③種皮が水や気体を通さない(種皮の耐久性が落ち、剥がれ落ちる必要があるなど)」に関連した現象としては、砂漠に生える短命(エフェメラル)植物の例が挙げられます。種子は水を与えただけでは発芽しないが、種皮に傷をつけて水を与えると、発芽、成長、開花し種子をつけて約10日で一生を終え、種子は長い間の休眠に入る。種皮に傷がつくことは水の流れがあったことに関連し、砂漠に何年かに一度雨が降って水の流れができると、種子に傷がつく。すると、種子の方では、砂漠の中で一生を終えられるほどの水分が当座はあると判断し、発芽してすばやく一生を終える。
以上のように、発芽と休眠のメカニズムは、種子植物の種により多様ですが、他方、これらの性質は進化の過程で徐々に獲得された遺伝子の変化に対応している面もあり、かなり多くの植物が共通するメカニズムを利用している例も数多くあるので、植物学の研究者は、まず相当多くの植物に共通する部分に焦点を当て、次いで、異なる部分にも着目して研究することにより、この分野の学問が進歩しています。
将来、研究が進み、ある植物の休眠と発芽に関し、たとえば、休眠していた種子の組織T1,2,3、・・・で、ホルモンA とBそれぞれの量がどのように変化し、それに応じて細胞P1,2,3,・・・では遺伝子g,h,i・・・の発現量がさまざまに変化し、組織Q1,2,3・・・でどのような細胞分化が起きて発芽に至るかを記述できれば、ご質問の解析も可能になる可能性がありますが、休眠-発芽の経過は複雑で多様であり、研究の現状は数学的モデルの適用から程遠い状況にあるという状況かと思います。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
植物は、種子を作ることにより、次世代に命を引き継ぎ、また生育地域を拡大することができました。植物の生育環境は、地理的には山、平原、川など、土質は粘土、シルト、砂、礫などと多様で、気候も熱帯、温帯等、降水量の多少とまことに多様です。植物はこれらの環境下で、非常に長期にわたって命の糸をつないできました。スポーツにいろいろな競技種目があり、大会のレベルや入賞ランクも色々であるように、現存の植物は、それぞれの得意技を生かして、あるものはその地域で優占種となり、あるものはニッチェ(生活のための隙間)で細々と生き続けています。
質問の、種子の発芽と休眠に関しても、植物の適応戦略は植物ごとに異なります。適応の結果、季節がある地域に生育する植物では、花をつけ、種子を作り、発芽する時期が、春、夏、秋、冬(早春)と、種ごとにほぼ決まっています。種子の休眠によって生育に不適当な時期を乗り越え、適当な時期に休眠が打破されて発芽し、成長、開花、結実に至りますが、同じ地域に生きる植物との生存競争に打ち勝ち、草食動物の食害からも身を守り、次世代のための種子を作らなければなりません。植物をとりまく生育環境が多様であるように、休眠、発芽の時期の選択の戦略も多様で、似たような戦略をとっているものは多くあるにせよ、すべての植物に当てはまるような一般的スキームはありません。なお、種子は、運搬されることにより生育域の拡大にも役立ちます。
発芽時期の選択には様々な戦略がありますが、一群の植物については、下記の例のように、その機構が相当程度明らかになっているものもあります。
A:ホルモンのバランスによる休眠とその打破
「植物Q&A」で、「休眠」、「種子」で検索し、たとえば、登録番号0341,0635,0914,1183,1414等多数。(アブシジン酸、ジベレリンが頻繁に出てきます)
B:同様に「光発芽」で検索し、例えば、登録番号0847等
フィトクロムという色素タンパク質が光の質を判定している。葉はクロロフィルにより赤色光(R)をよく吸収するが近赤外光(IR)はそれほど吸収しない。種子が受ける光でR:IRの比が高ければ上空に他の植物の葉が少ないことの、比が低ければ葉が多いことの信号となる。前者の場合は発芽し順調に生育できるが、後者の場合は、他の植物に邪魔をされて光合成に有効な光が十分には得られず、発芽しても次世代の種子をつけない内に貯蔵物質が枯渇する可能性が高い。
C:インターネットで「種子」、「休眠」、「発芽」で検索
いろいろな情報が多数得られます。一例をあげると、種子のサイズは、栽培植物ではコメ、アズキなどは粒ぞろいですが、これは人為的な選択の結果です。雑草は、同種で似たような場所に生育するものでも、開花結実の時期や種子のサイズがバラバラです。同じサイズのものが一斉に発芽すると、降雪、干ばつ、山火事、草食動物による大規模食害などによって地域一帯の同種植物が全滅する危険性があります。種子のサイズが違い、発芽、開花、結実などのサイクルが多少異なっていれば、その中の少数のものは逆境を生き延びて種子を残す可能性が高くなります。このようにして、自然界で何万年、何十万年と命をつぐことができたと考えられます。
D:インターネットで「二次休眠」で検索
雑草の繁殖戦略に関する報告が見つけられる。
なお、質問①-⑤については、上述のように、植物によっていろいろな例があり、一般化は困難なので、一部についてお答えします。質問「成長阻害物質がない。あるいは、②のような胚や芽自身の休眠が存在しない植物は存在するのでしょうか?」に関しては:成長阻害物質がないと、親植物の花の中で発芽することを防ぐことができません。
また、質問「④種皮が水や気体は通すが硬くて芽が出てこれない(柔らかくなったら出てこれるなど)、質問「③種皮が水や気体を通さない(種皮の耐久性が落ち、剥がれ落ちる必要があるなど)」に関連した現象としては、砂漠に生える短命(エフェメラル)植物の例が挙げられます。種子は水を与えただけでは発芽しないが、種皮に傷をつけて水を与えると、発芽、成長、開花し種子をつけて約10日で一生を終え、種子は長い間の休眠に入る。種皮に傷がつくことは水の流れがあったことに関連し、砂漠に何年かに一度雨が降って水の流れができると、種子に傷がつく。すると、種子の方では、砂漠の中で一生を終えられるほどの水分が当座はあると判断し、発芽してすばやく一生を終える。
以上のように、発芽と休眠のメカニズムは、種子植物の種により多様ですが、他方、これらの性質は進化の過程で徐々に獲得された遺伝子の変化に対応している面もあり、かなり多くの植物が共通するメカニズムを利用している例も数多くあるので、植物学の研究者は、まず相当多くの植物に共通する部分に焦点を当て、次いで、異なる部分にも着目して研究することにより、この分野の学問が進歩しています。
将来、研究が進み、ある植物の休眠と発芽に関し、たとえば、休眠していた種子の組織T1,2,3、・・・で、ホルモンA とBそれぞれの量がどのように変化し、それに応じて細胞P1,2,3,・・・では遺伝子g,h,i・・・の発現量がさまざまに変化し、組織Q1,2,3・・・でどのような細胞分化が起きて発芽に至るかを記述できれば、ご質問の解析も可能になる可能性がありますが、休眠-発芽の経過は複雑で多様であり、研究の現状は数学的モデルの適用から程遠い状況にあるという状況かと思います。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-04-11