一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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胡瓜の種子について

質問者:   高校生   wtwt
登録番号4390   登録日:2019-04-09
胡瓜の種子は、その周りにある植物の種子の発芽を促す、「発芽促進物質」を出すということを伝承農法に関する本で知ったのですが、どのような仕組みでそのような作用が起こるのかについて書かれていなかったため、教えていただきたいです。
wtwt様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。大変お待たせしました。いただいたご質問について、弘前大学 農学生命科学部 生物学科 森林生態学分野の山尾 僚先生に下記ようなご回答をいただきました。
植物も「ケミカル・コミュニケーション」と呼ばれている方法で、同一種間、異種間あるいは同一個体の異なった部位の間で、物質(アレロケミカル)によって色々な情報の発信や受容を行っています。登録番号4407を読んでください。

【山尾先生のご回答】
 胡瓜の種子が周囲の植物の種子の発芽を促すという現象が本当であれば、大変興味深い現象ですね。実は、私自身も胡瓜の種子を用いて発芽実験を行ったことがあり、確かに胡瓜の種子が近くにあると、隣の種子(この場合は同種の胡瓜の種子)の発芽が促される傾向がありました。しかし、科学的にどのような仕組みでこの現象が生じているのかは、私も解明に至ってはおりません。

 最近の研究では、植物が様々な化学物質を利用して周囲の環境情報を感じ取っていることがわかってきています。我々の研究では、オオバコの種子が周囲に競争者となる他種植物が存在する場合には発芽タイミングを早めることを明らかにしました。発芽タイミングを早めることで、競争相手となる植物よりも早く成長し、競争に有利になると考えられています。この現象では、実際に競争者がいなくても、競争者を浸した水抽出物によって現象が再現されることを確かめました。このことから、水溶性の化学物質が情報として重要であると我々は考えていますが、化学物質が受容されたのちにどのような仕組みで発芽の促進が生じるのかは、やはり定かではありません。

 ひとつの可能性として、このような化学物質が種子内のホルモンバランスを変化させることが考えられます。種子の発芽は、ジベレリンとアブシジン酸という2つの植物ホルモンによって調整されていることが知られていますので、これらの活性が周囲の胡瓜の種子から放出された化学物質により変化している可能性が考えられます。

 化学物質かどうかは、我々がオオバコの実験でやったように、種子をしばらく水に浸して抽出液をつくり、単独の種子にかけてやるとわかるかもしれません。胡瓜の種子が、胡瓜の種子だけの発芽を促進するのか、あるいは他の植物種の種子の発芽も促進する効果を持つのか、を併せて調べてみると、「発芽促進物質」の正体を知る何かしらのヒントが掴めるかもしれませんね。是非、観察してみてください。


山尾 僚(弘前大学 農学生命科学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2019-06-16
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