一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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キヌガサソウのゲノム数について

質問者:   会社員   Saya
登録番号4395   登録日:2019-04-16
初めまして。
高山植物のキヌガサソウについて調べております。
その中で、2010年にキヌガサソウが生物の中で一番ゲノムサイズが大きいという論文が出ていることを知りました。
しかし、他の論文では、それよりも大きなゲノムサイズをもつアメーバ(ポリカオス・ドゥビウム)が最大であると記しているものもあります。
論文をきちんと読み込めているわけではないので、それぞれのニュアンスが異なるのかもしませんが、もし最新の情報などご存知でしたら、教えていただけますと幸いです。
Sayaさん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生物のゲノムサイズは通常、半数体が持つDNA量(1Cと表す研究者もいる)で表されます。(半数体:単相体ともいい、雌性配偶子、雄性配偶子を指す。両者が持つ遺伝情報は性染色体を除けば同等だとみなされるので、体細胞(二倍体)の核は、この2倍のDNA(2C)を含むことになる)。
これまでに報告された1Cの値で、一般的に科学界で認められている最大のものはキヌガサソウのもので、約1490億塩基対149,000Mbp)です(参考:ヒト3,000Mbp、イネ430Mbp、シロイヌナズナ125Mbp)。ヒト、イネ、シロイヌナズナでは、全塩基配列が決定されています。これに対し、キヌガサソウの場合は、組織化学的に固定し染色した核を細胞から分離し、フローササイトメトリーという方法で塩基対数を測定します(方法:染色した核を含む縣濁液を細いガラス管中に流し、顕微鏡で染色した画像を取り込み、これをコンピューター解析して、シグナルの大きさから核1個当りのDNA量を推定する)。たとえて言えば、全塩基配列の決定は文字数を1つずつ数えたのに対し、フローサイトメトリーによる方法は所定の原稿用紙(例400字詰め)に書かれた原稿のページ数から文字数を見積もる方法です。

さて、質問は「キヌガサソウのゲノム数」とありますが、遺伝子の情報は未だ公開されていないので、ゲノムサイズについてお答えします。
ゲノムサイズが最大な生物は、今のところキヌガサソウだと考えられています。これに次ぐものとして、シダ植物のマツバラン科の植物で147,000Mbpという値が最近報告されました。英国のKew Gardensの研究所は、植物を中心とするさまざまな生物の1C値を公表しています。
質問のアメーバのゲノムサイズは、1968年に報告されたもので、DNA量を生化学的方法(ジフェニルアミン法)で定量したものですが、方法や解釈に難点があるためか、専門家による1C値の表には採用されていません。


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-05-02
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