一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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種皮の透過性について

質問者:   会社員   へちま
登録番号4397   登録日:2019-04-17
種子の発芽を示すため、
種子の呼吸と蒸散・吸水について詳しく知りたいのですが、
種皮がどれだけ水や酸素を透過するかが分かりません。

特に、酸素の透過について知りたいです。

種皮の乾燥具合によって、透過率が変化するのでしょうか。
その時、どういった仕組みで透過率が変化するのでしょうか。
(気孔がABA含量によって開閉するなど)
そもそも種皮に気孔は存在するのでしょうか。
ないのだとしたら、種皮からどうやって酸素を透過しているのでしょうか。

~が合成されるため透過率が上がる、などではなく、物理的になぜ透過率が上がるのかが知りたいです。
よろしくお願いします。





へちま様

質問コーナーへ再度ご来場歓迎いたします。今回も私が担当することになりました。
さて、種皮(ここでは、発達中の未熟種子ではなく、成熟した乾燥種子を対象にします)の酸素透過について知りたいということですが、残念ながら一般論としてお答えすることはできません。ただ言えることは、ポンプのような仕組みでエネルギー依存的(能動的)に酸素(あるいは他のガス)を取り入れているわけではありません。受動的透過です。ガス透過のための特別な装置もありません。物理的に言えば、マトリックスを通っての拡散です。その場合 cavity 存在、分布、サイズなども影響するでしょう。もちろん溶存酸素という形で水とともに浸透していくこともありえますが、濃度的には極めて僅かでしょう。しかし、酸素の種皮組織の透過し易さは、乾燥状態の方が組織が水を含んでいる時よりはるかに大きいとされています。しかし、二酸化炭素のように水に溶けやすいいガスではそうでもないようです。水透過性があってもガス(酸素も二酸化炭素も)は不透過という種皮も報告されています。
植物でのガス交換は通常気孔が関係します。種子でも気孔が存在する例が知られていますが(*)、あるとしても葉に比べて極めて分布が少ないのが一般的です。発達中の種子では胚への酸素供給などに機能していることを示す報告はありますが、成熟した乾燥種子では吸水(imbibition ) の時の水の通路になるのではないかとも言われています。乾燥種子で気孔がある場合、それが酸素透過に役立っているかどうかはわかりません。
種皮は種子の外側を囲む皮膜の総称であって、どの植物も同じものでありません。前回の質問への回答(登録番号4388)の中では、果皮との合体のことを少し述べました。つまり、どの植物も同じ材料と仕様で作られているものではありません。「種皮の多様性は珠皮の数・厚さ、細胞の厚壁化、機械細胞の分布、色素や有機物の沈積、細胞の退化消失、表皮細胞の特殊化などの組み合わせによって生じます」(岩波生物学辞典)。したがって、種皮と言っても一様に扱うわけにはいきません。また、種皮を構成する物質は複数のペクチン様物質の層、リグニン様ポリマー、セルロースなどがあります。また、最外部はワックスで覆われていたり、ムシリゲ(mucilage) という粘質の特殊構造があったりする場合もあります。トウモロコシなどは実質上種皮がありません。種皮の酸素透過率というパラメーターは一般論としては意味がないと思います。特定の種子、例えば、ヒマワリの種皮ということであれば、実験的に調べることもできるでしょう。いろいろな温度条件や酸素圧、他のガスの混在などで発芽率の面から調べた研究は多くあり、それぞれ様々な結果や影響が報告されています。しかし、酸素透過率を測定した研究は見当たりません。
ちなみに、種子発芽は無酸素条件下でも起きる場合があります。酸素が必要なのは発芽(休眠胚の成長再開)がエネルギー要求の過程ですから、酸素呼吸によってエネルギー(ATP)の供給が必要だからです。しかし、種子の中には、イネのように無酸素呼吸だけでよいというのもあります。植物といえども、その生活様式、生存のストラテジーは極めて多様ですので、「植物では」とひとくくりにすることは難しいことが多いです。

*種皮の気孔に関する研究はいくつかありますので、例えば、"stomata in seed coat” などの語句で検索していただければ、原論文を読むことができます。その一つを挙げておきます。
E ́ LDER ANTOˆ NIO SOUSA PAIVA1,*, JOSE ́ PIRES LEMOS-FILHO1 and DENISE MARIA.,TROMBERT OLIVEIRA2 .Imbibition of Swietenia macrophylla (Meliaceae) Seeds: The Role of Stomata. Annals of Botany 98: 213–217, 2006



勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-04-22
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