一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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デンプンの分解および酵素

質問者:   会社員   macco
登録番号4420   登録日:2019-05-12
以前、サトウキビの還元糖について質問させて頂いた者です。
今回はサトウキビのデンプンの生成・分解について質問させて下さい。

サトウキビは、蔗茎部にショ糖を多量に貯めることができますが、でんぷんの生成・分解はどのような時に盛んになるのかお教えください。
例えば、生育期、登熟期、出穂後、収穫後(収穫時の衝撃によるストレス反応など)

サトウキビはイネ科の植物なので出穂後にはショ糖よりデンプンの生成が優勢になると当方はかんがえております。

また、デンプンの分解酵素(アミラーゼ)は収穫後の活性はあるのか?その酵素はどこに存在するかまでお教えください。
宜しくお願い致します。

maccoさん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
砂糖は、生産量(乾燥重量)から見て世界最大の食用農産物で、世界全体では年に10億トン以上が生産され、全体の約3/4以上はサトウキビから、残りはサトウダイコン(テンサイ)から生産されています。生産量でこれに次ぐものは、トウモロコシ約7億トン、コムギ約6.5億トン。コメ約4億トンです。サトウキビの原産地はニューギニア、大平洋東南部の島嶼だとされ、多年生の草本で、主として根茎によって群落を維持しています。花はつけますが、種子1個の重量は1mg程度以下で、こちらは、分布域の拡大に役立っています。物質量からみて種子はわずかなので、植物全体からみても、デンプンの含量はわずかです。
農作物として栽培されているサトウキビはいくつかの系統を掛け合わせてつくられた雑種で、茎の高さは2-6mに達します。農業では、地上部を毎年のように収穫しますが、次第に収量が低下してくるので、数年間(2-10年程度)収穫したのち、芽のついている茎を切り出して、新たに植えることにより更新しています。なお、米国ルイジアナ州のように冬季に霜が降りる地域では、地上部は毎年枯れるが、茎根は残っているので耕作地は維持されます。ススキはサトウキビと同じ科に属しますが、ルイジアナ州のサトウキビの生活の季節的サイクルは、ススキに似ていると感じられます。
サトウキビはショ糖(スクロース)を茎部の髄(主として柔細胞からなる)にため込むことができ、その濃度は最高で湿重の15-25%にも達します。ショ糖を蓄える細胞器官は液胞です。これに対し、デンプンは貯蔵も分解も色素体(葉緑体、アミロプラスト、白色体など)の内部で起こります。わが国で野菜として利用されるジャガイモ、サツマイモのデンプン含量は、「食品分析表」によれば17.6%、33.1%となっているので、サトウキビは相当高濃度にショ糖を蓄えることができていると評価されます。サトウキビの絞り汁には、デンプンが0.1-0.2%程度含まれているという分析報告があります。デンプンは、主として葉緑体に由来すると考えられます。ショ糖に比べれば低い濃度ではありますが、精製したショ糖を作る工程では、デンプンがショ糖の結晶化を妨げる厄介者となっています。
光合成産物の糖リン酸からデンプン、ショ糖を合成するには、どちらも高エネルギーリン酸化合物(ATP, UTP)によるエネルギーの追加投入が必要ですが、デンプンとショ糖をエネルギー効率の面から比較したとき、両者の間にそれほど大きな差はありません。貯蔵してあるデンプンを生育等に再利用するには、デンプンを分解したのち、輸送に適した化合物(ショ糖)に変換しなければならず、この変換にエネルギーが余分に必要ですが、全体としてみればその差はそれほど大きくありません。デンプンの一時的および長期的蓄積は多くの植物種で見られるのに対し、ショ糖の顕著な高濃度な蓄積はそれほど多くは見られないようです。ショ糖を蓄積することは草食動物にエサとして狙われやすいという弱点があるのかもしれません。また、浸透圧の面からみて、水分が十分なければなりません。一方では、必要な時に直ちに利用できるという利点もあるので、サトウキビのように群落の中で草丈を競うような状況に置かれた植物にとっては、必要に応じて直ちに草丈を伸ばせるために蓄えているという利点があるのではないかと感じられます。
サトウダイコン(テンサイ)は、根に高濃度にショ糖を蓄積しますが、サトウキビでは根茎にショ糖を多量に蓄積するという報告はみつけられませんでした。ススキは、晩秋に地上部が枯れ、翌春に根茎部に蓄積した化合物を利用して芽を出しますが、季節的に消長するものは、可溶性糖類(細かい内容までは分析されず)及びヘミセルロース(細胞壁のセルロースを除く非水溶性高分子)で、デンプンがこれに続きます。


櫻井 英博 (JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-06-13
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