質問者:
その他
藤豆
登録番号4443
登録日:2019-06-11
2019年の5月、散歩中の植物観察の中でノゲシ(オニノゲシかもしれません)の大きな株に通常とは違う花を見つけました。丈1メートルぐらいの株に通常の黄色い集合花と外周の花弁が広くなっている集合花がついているものがありました。この株だけでなく在住の千葉県の線路わき、神社の敷地、一回は新宿御苑で見かけました。ノゲシの花の変異
同じ茎についていたので花弁の変異なのかと思いますが、隣接する個別の花の花弁が融合することは結構あるのでしょうか。写真が添付できれば良いのですが、不完全に融合しているように見える箇所もありました。
藤豆さん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
花の奇形や変わり咲きは、古くから植物愛好家の関心を集めており、アサガオなどのごく一部の植物については、変異の原因に関する研究体制が整いつつあります。藤豆さんはオニノゲシの奇花をさまざまな場所で観察されているとのことです。この質問に対する回答を次の2つに分けて、2人の専門家にお願いしました。
A:オニノゲシのこのような変異は、自然界で、特に頻繁に見られるか
B:様々な変わり咲きが蓄積されているアサガオについて、変わり咲きがどのような機構で起こるのかに関して、専門家はどのような視点から研究を行っているか
回答A 植物系統分類学分野が専門の村上哲明博士(首都大学東京、牧野標本館教授)にお願いして、周辺の方々に聞いて頂きました。写真から奇形であることは分かるが、オニノゲシの花にこのような奇形が特に多く見られるという見解は、得られなかったということです。
変異をたくさん見つけたという藤豆さんの報告は、注意深い観察眼によるものでしょう。
回答B 花の奇形は、人の目をしばしば引き付けるようで、以前から関連した質問が寄せられています。しかし、奇形の原因については、ある変異についてはトランスポゾンの働きによるといった段階までは判断できたとしても、それ以上の解明は現時点でもたやすいことではありません。他の原因によるのかもしれません。そこで、モデル植物アサガオを例にとり、星野敦博士(基礎生物学研究所)にこの問題に対する研究の方向性を解説していただきました。
星野博士の回答:
奇形の花を鑑賞する文化があるアサガオの研究者の視点から、コメントいたします。オニノゲシのような集合花ではありませんが、アサガオは5〜6枚の花弁が融合しています。ごく若いツボミを開くと5〜6枚の花弁を観察でき、生長するにつれてラッパ状の1枚の花弁にみえてきます。また、花弁の幅が狭い変異体があって、その花弁は融合することがなく、1枚、1枚が独立、あるいは根元の部分だけが融合して「切れ咲き」になります。
アサガオの奇形は遺伝的な要因によるもので、遺伝子が機能を失う変異が原因です。切れ咲きのアサガオの場合、花弁の幅を決める立田遺伝子などに欠損があるため花弁の幅が狭くなっており、花弁同士が融合できません(櫻井注:アサガオの立田株は花弁がカエデの葉のように切れ込みが顕著)。また、アサガオの花弁の表裏を決める遺伝子に変異があると、1枚の花弁の縁同士が融合するのか、筒状の構造になることがあります。問題のオニノゲシの花同士の融合が遺伝的な要因によるとすると、花弁の幅や表裏に関連した遺伝子に変異がある可能性がありそうです。いずれにしましても、ノゲシはアサガオとおなじく自家受粉で種をつくるらしいので、採種して子や孫の花も融合することを確認できれば、遺伝的な要因によるといえるでしょう。
ところでアサガオの変異の多くは「動く遺伝子」であるトランスポゾンが原因であり、このトランスポゾンのDNA配列を手がかりとして、奇形の原因となる遺伝子を特定することができます。野生植物でも、トランスポゾンが変異の原因となることがあります。トランスポゾンがオニノゲシの花の融合に関与していれば、原因遺伝子を絞り込む大きな手がかりになるでしょう。
アサガオでは、1つの系統について、2016年に全ゲノムの塩基配列(約7億5000万塩基対)が解読されましたが、各種の変異の原因遺伝子を具体的に特定するには、なお、非常な努力が必要です。変異の原因がトランスポゾンによるところまではわかっても、原因遺伝子の特定までには、さらに研究が必要だということになります。
なお、花の変異とトランスポゾンの関係について興味があるなら、インターネットで下記のキーワードで検索すると、いろいろ興味深い情報が得られるでしょう。
1) ナショナルバイオリソースプロジェクト、アサガオ
2) 農研機構、花、トランスポゾン
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
花の奇形や変わり咲きは、古くから植物愛好家の関心を集めており、アサガオなどのごく一部の植物については、変異の原因に関する研究体制が整いつつあります。藤豆さんはオニノゲシの奇花をさまざまな場所で観察されているとのことです。この質問に対する回答を次の2つに分けて、2人の専門家にお願いしました。
A:オニノゲシのこのような変異は、自然界で、特に頻繁に見られるか
B:様々な変わり咲きが蓄積されているアサガオについて、変わり咲きがどのような機構で起こるのかに関して、専門家はどのような視点から研究を行っているか
回答A 植物系統分類学分野が専門の村上哲明博士(首都大学東京、牧野標本館教授)にお願いして、周辺の方々に聞いて頂きました。写真から奇形であることは分かるが、オニノゲシの花にこのような奇形が特に多く見られるという見解は、得られなかったということです。
変異をたくさん見つけたという藤豆さんの報告は、注意深い観察眼によるものでしょう。
回答B 花の奇形は、人の目をしばしば引き付けるようで、以前から関連した質問が寄せられています。しかし、奇形の原因については、ある変異についてはトランスポゾンの働きによるといった段階までは判断できたとしても、それ以上の解明は現時点でもたやすいことではありません。他の原因によるのかもしれません。そこで、モデル植物アサガオを例にとり、星野敦博士(基礎生物学研究所)にこの問題に対する研究の方向性を解説していただきました。
星野博士の回答:
奇形の花を鑑賞する文化があるアサガオの研究者の視点から、コメントいたします。オニノゲシのような集合花ではありませんが、アサガオは5〜6枚の花弁が融合しています。ごく若いツボミを開くと5〜6枚の花弁を観察でき、生長するにつれてラッパ状の1枚の花弁にみえてきます。また、花弁の幅が狭い変異体があって、その花弁は融合することがなく、1枚、1枚が独立、あるいは根元の部分だけが融合して「切れ咲き」になります。
アサガオの奇形は遺伝的な要因によるもので、遺伝子が機能を失う変異が原因です。切れ咲きのアサガオの場合、花弁の幅を決める立田遺伝子などに欠損があるため花弁の幅が狭くなっており、花弁同士が融合できません(櫻井注:アサガオの立田株は花弁がカエデの葉のように切れ込みが顕著)。また、アサガオの花弁の表裏を決める遺伝子に変異があると、1枚の花弁の縁同士が融合するのか、筒状の構造になることがあります。問題のオニノゲシの花同士の融合が遺伝的な要因によるとすると、花弁の幅や表裏に関連した遺伝子に変異がある可能性がありそうです。いずれにしましても、ノゲシはアサガオとおなじく自家受粉で種をつくるらしいので、採種して子や孫の花も融合することを確認できれば、遺伝的な要因によるといえるでしょう。
ところでアサガオの変異の多くは「動く遺伝子」であるトランスポゾンが原因であり、このトランスポゾンのDNA配列を手がかりとして、奇形の原因となる遺伝子を特定することができます。野生植物でも、トランスポゾンが変異の原因となることがあります。トランスポゾンがオニノゲシの花の融合に関与していれば、原因遺伝子を絞り込む大きな手がかりになるでしょう。
アサガオでは、1つの系統について、2016年に全ゲノムの塩基配列(約7億5000万塩基対)が解読されましたが、各種の変異の原因遺伝子を具体的に特定するには、なお、非常な努力が必要です。変異の原因がトランスポゾンによるところまではわかっても、原因遺伝子の特定までには、さらに研究が必要だということになります。
なお、花の変異とトランスポゾンの関係について興味があるなら、インターネットで下記のキーワードで検索すると、いろいろ興味深い情報が得られるでしょう。
1) ナショナルバイオリソースプロジェクト、アサガオ
2) 農研機構、花、トランスポゾン
村上 哲明・星野 敦(首都大学東京、牧野標本館・基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2019-07-10
櫻井 英博
回答日:2019-07-10