一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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カルスの脱分化

質問者:   高校生   上田
登録番号0445   登録日:2005-12-13
菊の組織培養に取り組んでいます。

11月の始めに植込みをし、今、根や葉ができてきたものがある一方で、カルスになってから、全体的に黒ずみ、そのままの状態でなかなか脱分化が進まないものがあります。
これはどういう状態なんでしょうか?

よろしくお願いします
上田君/さん

カルスの脱分化に関する質問(登録番号0455)への回答が遅くなりました。筑波大学遺伝子実験センターの鎌田博教授に詳しくご回答をいただきましたので送り
ます。ご教示いただいた参考資料なども是非勉強してみてください。なお、植物の組織/細胞培養に関しては実用的な本も含めて多くの図書が出版されていますので参考にして下さい。


キクの組織培養では、使用する品種によって植物個体再分化の反応が大きく異なります。再分化能力の高い品種においては、培地さえ適切であれば、数個の外植片(例えば、葉の切片等)を培養すれば、どれかから必ず植物個体が再分化してきます。ただ、培地が合っているかどうかは品種によっても異なりますので、個別に検討する必要があります。
今回の質問では、それなりに個体再分化はしているようなので、一応現在使っている培地はそれなりに適切ではないかと思います。それでも、カルスの中には徐々に全体的に黒ずみ(これを褐変化といいます)、そのままの状態で再分化が進まないとのことのようですね。この褐変化は、生体内物質の酸化によって起こることがよく知られており、よく見られるのはフェノール類の酸化です。多くの植物で見られる現象であり、褐変化が進むと細胞・組織が死んでしまい、個体再分化ももちろん見られなくなります。ただ、例外もあり、褐変化した組織の一部から、忘れた頃になって植物個体が再分化することもあります。たぶん、一部に生き残っていた細胞があり、それが何かの原因で細胞分裂をはじめ、そこから植物個体が再分化したためと考えられます。また、植物種によっては、培養を始めるとかなり早い時期から褐変化が始まります、それでも細胞は死ぬことなく、分裂を続けて大きな細胞塊(カルス)を形成し、さらには、この黒ずんだカルスから植物個体が再分化する(もちろん、再分化した植物体は緑になりますが)場合もあります。柿の組織培養等でこの現象が見られます。柿の場合には、この黒ずむ原因はタンニン(ポリフェノールの1種)の蓄積によるものです。
褐変化は、多くの植物種で見られることから、それを防ぐ方法を多くの研究者が探しています。一般的によくとられる方法は、酸化防止剤を培地に入れることで、アスコルビン酸やPVP(ポリビニール(ポリ)ピロリドン)を入れて効果があったとする報告がたくさんあります。ただ、どの材料でもこの方法が有効とは限らないので、材料毎に適切な酸化防止剤とその濃度を決定する必要があります。
キクの組織培養については、多くの報告があり、それらを参考にすればよいと思います。キクの組織培養について専門に研究をしている人(福井県農業試験場の方)の論文(総説)(効率的な遺伝子組換えキクの育成方法に関する論文)がありますので、NET(http://www.jspcmb.jp/pbcontents/pdf/pb19_5/19_335.pdf)でご覧になって下さい。

 鎌田 博(筑波大学遺伝子実験センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-01-10
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