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不等葉性に関与すると思えるオーキシンに関して

質問者:   一般   PAPYRUS
登録番号4466   登録日:2019-07-08
定年退職後に趣味で植物観察を続けています。過去に何度か質問し丁寧な回答を頂きました。改めて御礼を申し上げます。
5年程経過しましたが、不等葉性にオーキシンが関与しているのではと考えて観察を続けてきました。最近カラムシが茎を傾けたときにだけ不等葉を発現する様子を見て、葉で合成されたオーキシンが極性移動で茎に入るとき、運河の水高を保つゲートのような、茎のオーキシン濃度を一定に保つシステムの存在を思いつきました。以下のブログに詳細をまとめましたが、全くの素人なので、関連する文献や論文を調べる手立てがありません。http://ashikawapapyrus.livedoo...

教えて頂きたいのは、同様の研究調査結果の有無と茎のオーキシ濃度を一定に保つシステムの有無、あるいは必要性の有無(システムがなくても植物は形を保てる、システムの存在なしでサイトカイニンやエチレンとの拮抗作用等で説明が付くなど)に関してご教示頂けますようお願い申し上げます。
PAPYRUSさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
大変お待たせしました。難しいご質問でしたので時間を頂きました。
ご質問はオーキシンの流れを形成する分子機構を研究されている神戸大学の深城英弘先生に回答をお願いしました。関連して補足しますと、オーキシンは単に細胞伸長を制御するだけではなく、茎、葉、根の原基形成に不可欠の植物ホルモンです。大きな極性移動という流れの他に局所的に濃度を調整して器官形成の位置や形態を制御しています。また、不等葉形成も直立した茎にも発生する植物種や側枝が斜め、水平におかれてはじめて形成する植物種などがあることが知られており、その生理的、生態的意義も議論されているところです。 


【深城先生のお答え】
 傾いた茎の節の上側(向軸側)に小さな葉が、傾いた茎の下側(背軸側)に大きな葉が育つ不等葉性について、PAPYRUSさんはカラムシの観察からオーキシンが関与するのでは、という興味深い考察をされておられますね。このような1つのシュートの向背軸に対して、複数のタイプの葉が形成される不等葉性は、ヒノキでも知られているとありますが、私が知る限りその仕組みは詳しく明らかにされていないようです。ただし、不等葉性の仕組みにオーキシンが関与する可能性については、わずかな文献で記載が見つかりますが、オーキシンの合成や輸送に関する具体的なメカニズムまで踏み込んだものではありません。ですから、「葉で合成されたオーキシンが極性移動で茎に入るとき、運河の水高を保つゲートのような、茎のオーキシン濃度を一定に保つシステム」の存在について、まだ実験的には検証はされていないと言えます。とはいえ、まずは不等葉性を示す植物で、葉でどの程度オーキシンが合成されているのか、またそのうち茎に輸送されるのはどれくらいの割合か、上側(向軸側)の小さな葉と下側(背軸側)の大きな葉について、葉の成長段階ごとに比較して、上側と下側で違いがあるのかを検証してみる必要があります。また、葉のオーキシンの量や、葉から茎への輸送活性の違いが、上下の不等葉性となんらかの相関があったとしても、それが不等葉性の原因かどうかはわかりません。野外で実際に行うのは難しいと思いますが、葉や茎をオーキシンの生合成や極性輸送の阻害剤で処理をした際に、不等葉性の発現に影響があるのかどうかを実験してみたいですね。さらに、傾いた茎の上側(向軸側)の葉と下側(背軸側)の葉では、葉の受ける光量や光質などに違いがあると思われます。向背軸以外の環境条件も不等葉性を導く要因になっているかもしれません。
 じつは、遺伝子レベルの研究が進んでいるモデル植物のシロイヌナズナにおいてすら、花茎のオーキシン極性輸送に対する茎生葉の数や位置の影響についてほとんど調べられていません。したがって、「運河の水高を保つゲートのような、茎のオーキシン濃度を一定に保つシステム」の有無や、そのようなシステムの必要性の有無について、現時点で明確なお答えをすることができません。私の考えでは、茎や根のオーキシンの濃度は、個体の成長・発生段階に応じて、あるいは環境の変化によって、ある程度の範囲で変化するのではないかと思われます。ただし、茎や根の成長に適したオーキシン濃度は異なるので、極端にオーキシン濃度が増えたり減ったりしたときには、ある程度の時間をかけて、生合成や輸送、応答のレベルを調節して、その器官の成長段階に適した濃度で安定する仕組みは存在すると考えられます。
 近年、環境に応答した葉の異形葉性に関する研究が盛んになってきていますので、カラムシの不等葉性のような、植物の体軸に基づいた葉の形成の仕組みについて、専門家による研究が進むことをぜひ期待してください。


深城 英弘(神戸大学理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2019-08-14
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