質問者:
大学院生
ぷ0001
登録番号4469
登録日:2019-07-08
私は農業工学分野に所属する学生です.みんなのひろば
植物細胞中のATP存在量の測定
現在,光合成活性の評価に関する研究をしています.
その一環で,植物細胞中に存在するATPの存在量を測定する必要が出てきました.(オオカナダモを対象としています.)
調べてみると,食品に付着した微生物量を推定する目的で,ATP量を推定する機器は市販されているとのことでした.
しかし本機器を植物細胞へ直接適用し,ATP存在量を測定することは困難かと存じます.(葉や溶液中に微生物が存在するため)
そこで植物細胞中のATP存在量のみを測定できる手法や機器などがありましたらご教授いただけると幸いです.
なお,冒頭にも記載したようにオオカナダモを対象としているため,この場では水生植物に限ったお話とさせてください.
ご回答のほどよろしくお願いいたします.
ぷ0001さん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
ATP(アデノシン三リン酸)は細胞の多くの活動(合成反応、能動輸送、力学的運動など)のための直接的エネルギーとなり、エネルギーの通貨とも呼ばれます。ATPは次のように加水分解されてADP(アデノシン二リン酸)とリン酸(Pi)になります:ATP+H2O→ADP+Pi。この反応のエネルギー落差を利用して、生命活動が可能となります。ATPが加水分解されてAMP(アデノシンモノリン酸)とピロリン酸(PPi)を生じる酵素もあり、この場合はエネルギー落差は更に大きくなります:ATP+H2O→AMP+PPi。ATPはエネルギー充電型の化合物であり、ADP、AMPはエネルギー放電型の化合物です。再び仕事をするためには、低エネルギー型のADP、AMPを元に戻す必要がありますが、光合成や呼吸では酸化還元のエネルギー落差を利用して、コウボや乳酸菌などの発酵作用では原料物質(糖など)と生成物(エタノール、乳酸等)の化学的エネルギーの落差を利用してATPを再生します。
ATPの定量には、ホタルのルシフェリン(基質)-ルシフェラーゼ(酵素)系による発光(以下、L-L発光と略記)が、検出感度が高いため、良く利用されています:
ATP+H2O+ルシフェリン→AMP+PPi+ルシフェリンの分解産物(+光)
発光を感度良く測定するための専用機器も市販されています。L-L発光を利用した定量法は、目的物質の吸光度測定や、発色処理後の分光光度測定などと比べて、数桁程度高い感度を得ることができます。L-L発光では、ATPが発光をともなって化学反応的に分解されてAMPとなると、反応は1回限りで終わります。また、ADP、AMPはそのままでは検出できません。しかし、発光溶液中にADPやAMPをATP戻してやるための酵素と基質を加えておけば両者もATPに再生でき、このようにしてATPが繰り返し発光に利用されるので、検出感度が格段に高くなります。
生体試料を用いる場合は、ATPがL-L試薬の分子と溶液中で直接接している必要があります。生物体(細菌を含む)では、ATPは細胞内部、オルガネラ内部にあるので、生体膜を破壊しない限り、L-L反応は起こりません。細胞内部のATP濃度を知るためには、生物体の外部にある(表面に付着しているものを含む)物を生物体から分離し(前処理)、それから分離した生物体試料の生体膜等を破壊してL-L法によりATPを定量することになります。ATPが細胞内部にあるか外部にあるかは前処理の方法に依存しており、質問のオオカナダモの場合も、生体の中にあるか外にあるかは質問者がどのように前処理を行うかに依存しています。
なお、生物発光は夜光虫、ツキヨタケなどでもみられ、発光にかかわる酵素、基質は分子の種類にかかわらずルシフェラーゼ、ルシフェリンと総称されます。一般的に生物群を超えた互換性はなく、たとえば、夜光虫のルシフェリンとホタルのルシフェラーゼを混合しても発光は起こりません。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
ATP(アデノシン三リン酸)は細胞の多くの活動(合成反応、能動輸送、力学的運動など)のための直接的エネルギーとなり、エネルギーの通貨とも呼ばれます。ATPは次のように加水分解されてADP(アデノシン二リン酸)とリン酸(Pi)になります:ATP+H2O→ADP+Pi。この反応のエネルギー落差を利用して、生命活動が可能となります。ATPが加水分解されてAMP(アデノシンモノリン酸)とピロリン酸(PPi)を生じる酵素もあり、この場合はエネルギー落差は更に大きくなります:ATP+H2O→AMP+PPi。ATPはエネルギー充電型の化合物であり、ADP、AMPはエネルギー放電型の化合物です。再び仕事をするためには、低エネルギー型のADP、AMPを元に戻す必要がありますが、光合成や呼吸では酸化還元のエネルギー落差を利用して、コウボや乳酸菌などの発酵作用では原料物質(糖など)と生成物(エタノール、乳酸等)の化学的エネルギーの落差を利用してATPを再生します。
ATPの定量には、ホタルのルシフェリン(基質)-ルシフェラーゼ(酵素)系による発光(以下、L-L発光と略記)が、検出感度が高いため、良く利用されています:
ATP+H2O+ルシフェリン→AMP+PPi+ルシフェリンの分解産物(+光)
発光を感度良く測定するための専用機器も市販されています。L-L発光を利用した定量法は、目的物質の吸光度測定や、発色処理後の分光光度測定などと比べて、数桁程度高い感度を得ることができます。L-L発光では、ATPが発光をともなって化学反応的に分解されてAMPとなると、反応は1回限りで終わります。また、ADP、AMPはそのままでは検出できません。しかし、発光溶液中にADPやAMPをATP戻してやるための酵素と基質を加えておけば両者もATPに再生でき、このようにしてATPが繰り返し発光に利用されるので、検出感度が格段に高くなります。
生体試料を用いる場合は、ATPがL-L試薬の分子と溶液中で直接接している必要があります。生物体(細菌を含む)では、ATPは細胞内部、オルガネラ内部にあるので、生体膜を破壊しない限り、L-L反応は起こりません。細胞内部のATP濃度を知るためには、生物体の外部にある(表面に付着しているものを含む)物を生物体から分離し(前処理)、それから分離した生物体試料の生体膜等を破壊してL-L法によりATPを定量することになります。ATPが細胞内部にあるか外部にあるかは前処理の方法に依存しており、質問のオオカナダモの場合も、生体の中にあるか外にあるかは質問者がどのように前処理を行うかに依存しています。
なお、生物発光は夜光虫、ツキヨタケなどでもみられ、発光にかかわる酵素、基質は分子の種類にかかわらずルシフェラーゼ、ルシフェリンと総称されます。一般的に生物群を超えた互換性はなく、たとえば、夜光虫のルシフェリンとホタルのルシフェラーゼを混合しても発光は起こりません。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-07-16