一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ミニトマトと酸性水溶液について

質問者:   一般   みおり
登録番号4519   登録日:2019-08-25
以前,酸性雨によって森林が枯れることを知り,今年の夏の自由研究としてミニトマトに酸性やアルカリ性の水溶液を与えながら栽培しています。酸性水溶液として,レモン水㏗2.56,酢水PH3.07,アクエリアス㏗3.44,しょうゆ水㏗5.50,酒水㏗5.81,アルカリ性水溶液として,アルカリイオン水㏗9.43,中性水溶液として,水㏗7.71を朝,夕500mlずつ与えました。すると酸性の強いレモン水や酢が元気に育ちました。酸性雨より酸性の強い水溶液を与え続けても,元気に育つのなぜか自分で考えてもわからないので,教えてください。また,水で育てた苗は元気に育っていたのですが,茎の一部分が黒くなり,7/24頃急に枯れてしまったのですが,考えられる病気などあれば教えてください。
みおり さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
酸性雨が植物にとってなぜ有害かを見ると、酸性度の主要な本体が硫酸や硝酸によるためで、単に酸性度(pH)だけの問題ではありません。石炭、石油などの化石燃料は特別なものを除いては硫黄分を少なからず含んでいます。これらを含む燃料を燃焼することで二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を、また燃焼情況によって空気中の窒素が酸化されて窒素酸化物(NOx)が生成されます。これらはさらに酸化され硫酸、硝酸となり、空気中の湿度を吸収して微少な粒子として空中に漂い、降雨のさい雨の水滴と融合して硫酸水、硝酸水となって降ってきます。硫酸は不揮発性で高濃度では腐食性がたかく、硝酸は強い酸化力があり、いずれも細胞毒性がありますので植物に直接触れれば、水の蒸発とともに高濃度になり、植物は次第に枯死することになります。ただし硝酸イオンは低濃度では植物の窒素源の1つとして有益なものです。
一方、今回の試験に使われた試験液の成分を見ますと、レモン水は主にクエン酸、酢水は酢酸が酸性の主体です。しょう油水は多種類のアミノ酸と食塩(塩化ナトリウム)の、酒水はエタノール、アミノ酸類、糖類の、アクエリアスは各種塩類の混合物で、いずれもかなり希釈され低濃度のようです。それぞれイオン化する各成分の相対量でpHが決まっています。アルカリイオン水は、原水に用いた水(水道水?)に含まれる金属イオン、電解で生ずる水酸基イオン、水素などの溶液で、本質は原水とほとんど変わりはありません。したがって、すべての試験液は植物にとって無害か、むしろ有益な栄養素を含んでいます。
さらに、試験水を土壌に直接与えているので土壌粒子、土壌微生物との関係が出てきます。有機物は土壌微生物の働きで多くは分解されますし、無機イオンは土壌粒子に吸着されるか直接根から吸収されます。いずれも濃度が根の浸透圧と同等かそれより低いことが重要です。クエン酸、酢酸ともに弱酸で低濃度ですので、試験液のpHは土壌の酸性度に大きな影響を与えることはないはずです。
最後に、水を与えたトマトの茎の一部が黒くなり枯れた現象は、これだけの情報では判断できません。何らかのカビによる病気(例えば青枯れ病、疫病など)の可能性は否定できませんが、病原微生物による病気は葉に病徴が現れる場合がほとんどです。


今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-09-03
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