一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

植物個体内の生理循環について

質問者:   その他   田賀陽介
登録番号0453   登録日:2006-01-02
初めて、質問いたします。

私は地域の歴史、民俗地理、自然環境、地域経済をできる範囲で調べながら、環境風土にあった土地利用の企画計画また農作物の加工の企画デザインなどをしています。
こうした風土的な検討をする時に、植物を含めた物質循環のしくみへの理解も重要であるとおもっているのですが、植物の仕組みのなかで、光合成の話や、酸素の排出と炭素の固定や窒素の固定についての話はよく見かけるのですが、今ひとつ全体の生理的な循環の現象がよくわかりません。
基本的なことのようで申し訳ありませんが、お教えいただければ幸いです。
とりあえず、現在私が勝手に理解している生理現象を以下に箇条書きにしてみましたので、正否を含めお伝え頂ければ幸いです。

・葉は太陽エネルギーと炭酸ガスを得て、アミノ酸有機物を生成する。
・葉はアミノ酸を糖類、澱粉に生成され、根に送られ土中の栄養素を吸収するエネルギーとなる。
・葉は酸素と窒素と不要な炭酸ガスを排出する。
・根は炭酸ガス以外の栄養素を吸収して個体の各部署へミネラル分と水素、窒素を供給し、アミノ酸と合成されタンパク質を形成して植物体を構成する。
・根は土中の気相からも酸素吸収を行う。

以上です。よろしくお願いします。
田賀陽介 様

ご質問の順にお答えします。
1)葉の光合成とその産物
 葉は光合成をするための器官であり、太陽の光エネルギーを利用して二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から、まず、炭素を3原子もつ三炭糖を合成し、これから他の糖類、デンプン、アミノ酸など多種類の有機物を合成していきます。アミノ酸、これから合成される蛋白質、さらにアミノ酸以外の窒素を含む細胞成分(核酸、アルカロイドなど)の合成には根から吸収されるアンモニウム塩または硝酸塩(無機体窒素)が必要です。作物の収量が窒素肥料の施用量に大きく依存することからみても、無機体窒素は植物の成育にとってどうしても必要です。ダイズなど豆科植物の根には根粒菌が共生し、空気中の窒素ガスをアンモニウム塩に固定することができますが、これには光合成で合成された糖類がエネルギー源として必要です。昼間、光合成によって有機物を合成すると共に、酸素を発生(排出)するのも葉の器官の大きな特徴です。
2)光合成産物の葉から根への移動
 上に記しましたように、葉ではまず糖類が合成されこれからアミノ酸が合成されます。糖類は葉から根やその他の器官に篩管を通って、ショ糖の形で送られ、有機体窒素は主としてグルタミン酸、アスパラギン酸の形で送られます。デンプンは水に溶けないためこの形では移動できません。種子、塊茎、根(根の先端の根冠細胞に含まるデンプンは重力の感知センサーになる)などに含まれているデンプンは、葉から送られてきたショ糖から合成されます。こうして送られた光合成産物によって根が成長し、糖類は土壌に含まれるミネラルを吸収するためのエネルギー源となります。
3)葉からの気体の排出
 上に記しましたように、葉では昼間、光合成によって酸素が発生し、二酸化炭素(CO2)を吸収します。しかし、昼間でも、葉は (暗)呼吸、光呼吸によって酸素を吸収し、二酸化炭素を発生しますが、その量は光合成に比べて一般には大きくありません。夜、光合成をしていないときは(暗)呼吸のみが進行し、酸素を吸収して二酸化炭素を排出します。空気中に79.1%含まれている窒素ガスは、二酸化炭素、酸素とともに気孔を通って葉の内部に出入しますが、葉の細胞で吸収、発生することはありません。
4)根の機能
根は植物の生育に必要なミネラル(上に記した無機体窒素以外に少なくとも13種類の元素が必要です)と水を土壌から吸収し、これを植物の各器官に供給し、葉で合成され、葉から送られてきた糖類やアミノ酸を利用して蛋白質や細胞壁(セルロース、リグニンなど)を合成し成長していきます。窒素は根から無機体窒素またはグルタミン酸、アスパラギン酸の形で各器官に送られ、各器官でその他のアミノ酸、蛋白質などになります。特定の藻類では水素ガスの発生、吸収が見られますが、植物では水素ガスの発生、吸収は見出されていません。
5)根の酸素呼吸
 根の機能であるミネラル、水の吸収、根の成長のために必要なエネルギー(ATP)は、葉から送られてきた糖を呼吸によって酸化して得ているため、根にとって酸素は絶対に必要です。畑地では土壌間隙の空気から直接に、または水に溶けた酸素が根に供給されていますが、水田に生えているイネ、湿地、沼地に生えているハスのように、根に酸素が供給できない環境に生えている植物は地上部から根に酸素を送ることができるようになっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
 浅田 浩二
回答日:2006-01-10