一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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緑色光は原形質流動に影響を与えない?

質問者:   大学生   TCS(サイスト)
登録番号4532   登録日:2019-09-08
私は自主研究で、暗闇でのオオカナダモの原形質流動を観察したいと思っています。
ある論文(※1)で、「セキショウモにおいて、緑色光(λmax=550mm, 0.6W/m²)は、原形質流動の速さに影響を与えない」という記述があったので、緑色光下での観察をしたいのですが、緑色光が原形質流動の速さに影響を与えない根拠がその論文から見つけられませんでした。​
その根拠となる実験はありますか?また、その根拠はオオカナダモにおいても通用しますか?​

※1 Shingo Takagi and Reiko Nagai(1983)『Reguration of cytoplasmic streaming in Vallisneria mesophyll cells』
TCS(サイスト) 様

この質問コーナーをご利用くださりありがとうございます。
ご質問には、大阪大学の高木先生が回答文をご用意くださいましたので参考になさってください。高木先生は、実は、あなたが「ある論文」と書かれている参考論文の著者です。先生にうかがうと、これは先生の論文デビュー作であるとのことでした。

【高木先生からの回答】
TCS(サイスト)さんが参考にされた論文を書いた張本人の高木です。参考にしてくださって、ありがとうございます。ちょっと緊張します。まず、僕が緑色光(λmax=550 nm, 0.6 W/m2)を観察に用いた根拠は、この緑色光が原形質流動に影響を与えなかったからです。わざわざ「この緑色光」と書いたのは、緑色光と一口に言っても、いろいろな色合いや強弱があるからです。色は「λmax=550 nm」で表されます。僕は緑色光を作るのにフィルターを使いました。そのフィルターが最もよく通す光の波長が550 nmで、人間の眼には緑色に見えます。ご存知のように、人間は、光の波長の違いを色の違いとして認識しますね。一方、「0.6 W/m2」は、光の強さです。僕が観察した限り、「この緑色光」は、セキショウモの原形質流動に影響を与えませんでした。ただし、TCS(サイスト)さんが「原形質流動の速さに影響を与えない」と書いているのは、不正確です。原形質流動の何に影響を与えなかったのかについて、もう一度、論文を読んで確かめてみてください。

さて、僕が緑色光を観察に用いた根拠は上に書きましたが、TCS(サイスト)さんがお尋ねの「根拠」は、何故、緑色光は原形質流動に影響を与えないのか、その原理を知りたいということではないかと想像します。これを理解するには、「光受容体」という概念が必要となります。すでに習ったかもしれませんが、光屈性や種子発芽の光受容体については習っても、原形質流動の光受容体は習わないと思います。なので、自分で調べてみてください。そして、その根拠がオオカナダモにも通用するかについては、僕もわからないので、自主研究の中で明らかにしてほしいと思います。期待しています。さらなる疑問や困ったことが出てきたら、また質問してください。



高木 慎吾(大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2019-09-22