一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の遺伝子

質問者:   高校生   Mmm
登録番号4572   登録日:2019-11-02
地球温暖化により、植物の生育域が北上すると聞きました。しかし、生態系を守るためには植物が温暖化の影響に適応することが必要だと思います。現在、砂漠などの暑い地域に生育する植物があり、それらは高温耐性が備わっていると考えます。私は、もし植物が持つ遺伝子が同じであれば、暑い地域以外で生育する植物も、高温耐性が備わっていると思います。しかし、生息域の北上がいわれているので、遺伝子は持っているが発現していないのだと考えました。そのため、温暖化の影響を受けても生態系を守るためには、植物が潜在的に持っている(かもしれない)遺伝子を発現させることが必要だと考えています。

ここで質問なのですが、植物の遺伝子が発現するにはどのような条件が必要なのでしょうか?

まとまりがなくてすみません。
よろしくお願いいたします。
Mmm さん

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
私たちの地球上での生存を持続可能にするには、まずは「温暖化」の進行を抑えるための努力が必要ですね。温暖化によって生ずる生態系の変化に対応する有効な術があるようには思えませんが、そのような状況に至っても少なくとも作物(食糧)の収穫量は確保したいので、植(作)物に高温耐性を与えることが課題となっております。広く生物界を見渡すと80℃以上を生育の至適温度とする生物がいることに驚きますが、私たちが懸念するのは1~3℃の範囲の温度上昇ですので、ご指摘のとおり既に植物に備わっている遺伝子の発現を調節することで対応できるものと期待されます。

説明するまでもなく、植物の遺伝子の情報は、転写や翻訳を経てRNAやタンパク質の機能に変換(発現)されることになりますが、この過程には転写産物(mRNA)や合成後のタンパク質の改変・修飾など複雑なプロセスが含まれております。これら一連の過程は、内外の環境要因によって調節を受ける仕組みになっており、貴方が問題とする温度もこれらの因子の一つとなります。報道などで「植物の高温耐性を強化する遺伝子の発見」のような記事をよく見かけますが、一例を挙げれば、実験的に熱ショック(一時的に高温にさらす)を与えると、これに応答して発現されるmRNAやタンパク質が数多く見つかります。すなわち、環境温度の(一時的または恒常的な)変化が何らかの仕組みで検知され(登録番号4565参照)、遺伝子情報の発現過程に変化を与え、植物の環境対応に変化が生ずるのです。このような調節の仕組みに変化を与えることにより、高温耐性を獲得した植物が得られる可能性があります。ただ、通常、高温耐性は一つの遺伝子によって決まるのではなく、遺伝子の階層をなした多重な働きの結果として発現するのが実態のようです。鍵となるものの一つはDNA情報の転写を調節する「転写因子」で、この因子には恒常的に発現しているが問題の環境因子が検出されるまでは不活性状態のままでいるものがあったり、環境因子が検出されることによってはじめてその転写が活性化されるものがあるなど、いろいろな場合があるようです。このような知識を手がかりにすると植物の温度耐性の改変に挑めるかも知れません。一般に、移動手段を備えた動物と比較して、植物には環境適応のための高度な仕組みが備わっている模様です。



佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-11-07
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