一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物に光を当て続けるとどうなるか?

質問者:   教員   キクチェンコ
登録番号4575   登録日:2019-11-03
多くの動物の場合、何か刺激を与え続けて、強制的に活動を続けさせる(寝させない)と、心身に異常を来し、最終的には死んでしまうと思われますが
植物に、昼と同様の光を与え続け、強制的に光合成を絶え間なく行なわせた場合、動物のように、何か異常が生じてしまったり、死んでしまったりするのでしょうか?

光が継続するという条件以外(空気・水分・養分等)は、植物にとって理想的な環境であるという設定でお願いします。
また、光害のような生態系に対する影響という視点ではなく、あくまで個体レベルの視点での質問ですので、よろしくお願いします。

何卒、ご教授いただければ幸いです。
キクチェンコ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ご存知かと思いますが、植物は様々な外的(環境)要因によってその成長・発生が大きく影響を受けます。また、それらの要因を成長・発生過程の調節のための必要な信号として利用しています。さらに、中でも光は生命活動のエネルギー源として欠くことはできません。
ご質問では、植物の生育に必要な諸条件はすべて正常であるが、光を連続光にした場合どうなるかということをお尋ねだと理解してお答えいたします。しかし、答えはそう簡単ではありません。まず、植物は何であるか。木本なのか草本なのか、野生植物か栽培植物か、陽生か陰生か、短日か長日か中性かなどによって異なると思います。「植物」としての一般論はできないと思います。また、光と言っても様々で、光の強さ(光度)はどれくらいか、光の質(波長、色)はどうなっているかによって異なります。
現在ある自然界の植物はそれらがどんな環境で進化してきたかによって、それぞれが様々な環境の要因に対して、適正な対応の手段を構築してきています。例えば、日照時間が極めて長い環境で進化してきた植物と薄暗い気温の低い環境で進化してきた植物の光刺激への反応を調べるのに、両者を同等の「植物」として扱うことは適切ではないでしょう。また、栽培植物は人間が時間をかけて、いわば作り変えてきた植物ですから、それぞれの原種の環境刺激への対応機能をそのまま遺伝的に残しているとは限りません。同じ光でも青色光、赤色光は特に重要な役割を果たしています(質問コーナーの過去の質問を検索してみてください。)ので、これらの光が多く含まれる光は何らかの特定の影響を持ちます。また、紫外線、特に短波長のUVB(290~315nm))、UVC(<280nm)は傷害をもたらすことが多いです(登録番号0391, 0403, 1733)。赤外線も影響があります(登録番号1733)。
あえて一般論的に言えば、連続光照射は光合成の割合と同化産物の蓄積に影響を及ぼすし、昼夜の入れ替わりに対応しているサーカディアン・リズム(体内時計)は乱されるでしょう。その結果、植物の成長過程が全般的に、調節的影響を受けるでしょう。しかしこれらの影響がそのまま異常となるのか、死につながるのかはわかりません。どういう観点からの異常なのか。例えば、光合成速度が著しく変化する、花芽形成が行われない/遅くなる/早まる、葉などの器官に形態的異常が起きる、成長が早まる/遅れる、老化が早まる/遅れる、その他生理的に特別な変化が生じる、など。
以上の述べてきたように、ただ連続光を与えたらどうなるかということに対しては、なんとも言えないとお答えする以外にありません。しかし関連する研究はないか調べてみました。
野生植物だけを対象に連続光の影響を見た研究は見当たりませんでしたが、連続光の影響は、管理された人工栽培(気象)室(棟)での作物の育成の上で、重要な技術的問題点となっています。この方面での研究は沢山ありますが、いずれもいかにして成長をはやめるか、収量をを高めるか、などコスト・パーフォーマンスなどの観点から特定の栽培植物を対象にしたものです。したがって、植物の種類によって各論的な扱いが多いです。
幾つかを紹介しましょう。長日植物の作物である春蒔きコムギ(30品種)、オオムギ、ラディッシュ(Raphanus sativus)、長日/中性植物のエンドウでは連続光は生殖サイクルを促進する結果、発育速度が高められる。他方、短日植物のラッカセイは最初に花芽が形成されるまでの時間は影響されなかったが、個体あたりの葉の数は増加したが、花の数も短日条件の方がかなり多かった。また、同じ短日植物のキビ類は連続光下で生育の遅れは見られたが、開花と種子生産には影響がなかった。この他にもヒマワリ、ワタ、トウガラシ、ダイズ、バラ、キュウリ、リンゴ、等他多数の栽培種についての報告があります。これらを大まかに総合すると、報告された実験条件下では連続光が植物体を死に至らしめるような結果はありませんでした。しかし、極めて光度の高い光を与えた場合にどうなうかはわかりません。種によっては致死的なこともあるかもしれません。連続光はイチゴなどでは葉の退緑(葉緑素の減少などが原因)が起きることもありますが、開花、種子生産などでは大きな影響はなかった。
連続光照射が植物の成長・発生の過程に何らかの影響を持つことは明らかですが、それが生存と繁殖のために極めて不利であるとは言えないでしょう。むしろ利することもあるようです。連続光下では老化が早くなるという報告もありますが、それは一生の期間が縮められたことで、植物体の生産量に変わりがなければ、ライフ・サイクルの短い方が栽培には望ましいということになります。
連続光を与えた場合、もちろん、光量にもよリますが、普通は光合成の割合が増加します。普通の条件下だと、葉で一旦蓄積された光合成産物のデンプンはショ糖に分解され、植物体の各所へ転流されます。これは通常夜盛んに行われます。しかし、連続光下だと、絶え間なくデンプンが蓄積されてしまいます。葉でのデンプン蓄積量の過剰が、もし退緑や成長低下などの異常が起きるとすれば、一つの原因だという人もいます。また、連続光は光酸化的障害、エチレンなどのストレスの原因となるホルモンの生成の引き金になるという人もいます。しかし、現段階では明確な因果関係はほとんど明らかにされていません。
ご質問への結論的回答として、連続光照射は植物の成長・発生の過程にへ何らかの影響を持つが、それが異常であるかは一般論としては言えない。また連続光下で、植物が正常なライフ・サイクルを全うできないで、死んでしまうといことは普通の植物ではないと考えてよいでしょう。植物はかなりタフな生物で、環境の多様な変化に対して柔軟な対応能力を持っています。
なお、栽培植物の管理栽培における連続光照射の研究をレヴューした論文がありますので。英文ですがもしご関心があれば読んでみてください。
Marina I. Sysoeva, et al. Plants under continuous light : A review, Plant Stress ,5~17, 2010 (Plants under continuous light : A review の項目で検索すればみられます)


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-11-08
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