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花成ホルモンを細胞内に輸送するしくみ

質問者:   教員   額鷹
登録番号4580   登録日:2019-11-10
いつも、利用させて頂いており、専門家の方々の労力に感謝しております。

花成ホルモンの実態がFT/Hd3aタンパク質であることや、FDタンパク質、14-3-3タンパク質と複合体をつくって、転写因子としてはたらくことなど、分子レベルの機構の解説(レビュー)を読むと、自分が高校生だったころからの研究の進展に驚くばかりです。

そこで質問です。

高校生物では、動物のホルモンに関連して、ペプチド性の情報伝達物質は細胞膜を透過できないので細胞表面に受容体が存在し、ステロイドなど細胞膜を透過できる情報伝達物質の受容体は細胞内に存在するという、一般則(?)が扱われています。

しかし、花成ホルモンはタンパク質でありながら、細胞内で他のタンパク質と相互作用する。となると、必然的に、細胞内に輸送するしくみがあると推論したくなるのですが、この輸送の仕組みは、どのようなものなのでしょうか? 教えて頂けると幸いです。
額鷹 さま

植物Q&Aコーナーをご利用頂き有り難うございました。
回答は、横浜市立大学・木原生物学研究所の田岡健一郎博士に頂きました。

【田岡先生のご回答】
ご質問の花成ホルモンの輸送メカニズムですが、花成ホルモンは原形質連絡(プラズモデスマータ)と呼ばれる細胞間に存在するトンネルを通って細胞間を輸送されると考えられています。花成ホルモンが、いったん細胞膜の外に分泌されて、それを受容する細胞が細胞外から取り込むといった経路は今のところ報告されていません。花成ホルモンの移動に関する研究は遅れていますが、最近の研究から、花成ホルモンFTタンパク質のどのアミノ酸残基が細胞間移行に重要なのか、どんなタンパク質がFTと結合して細胞間移行に働いているのかが明らかになってきています。

原形質連絡は植物細胞に特有の構造で、原形質連絡によって隣り合った植物細胞の多くは、その原形質がつながった状態になっています(原形質連絡がどんな構造なのかは、「原形質連絡」「plasmodesmata」の用語でインターネット検索するといくつかできます。また、私の手元にある教科書(第一学習社 改訂 高等学校 生物、平成30年発行)にも図解されています)。動物細胞にも、隣り合った細胞間の物質移動に関わるギャップ結合と呼ばれる連絡が存在しますが、その構造は原形質連絡とはまったく異なっており、通過できる物質もイオンや代謝産物などの低分子に限られています。一方、原形質連絡では、イオンや代謝産物のような低分子は自由に移動できますが、タンパク質やRNAなどの高分子も選択的に移動できることがわかっています。この選択的な高分子の移動がどうやっておこるのかについては、現在も研究が進められています。

植物病理学の分野では、原形質連絡を介した細胞間移行が植物ウイルスの全身感染に重要な役割を果たしていることから、原形質連絡についても昔から研究されていました。そして近年、植物を形作る発生過程においても、転写因子やsmall RNAの原形質連絡を介した細胞間移行が重要な役割を果たしている例がいくつも発見され、原形質連絡はますます重要な研究対象となっています。

FTの細胞間移行の詳細については、たとえば、京都大学の荒木先生らの執筆された日本語の総説「化学と生物 54(4): 281-288 (2016)」をご参照ください。また、原形質連絡に関しては、登録番号1168にも解説がございます。



田岡 健一郎(横浜市立大学・木原生物学研究所)
JSPP広報委員長
木下 哲
回答日:2019-11-16
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