一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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組織培養植物の器官分化について

質問者:   その他   土橋敬一
登録番号0459   登録日:2006-01-07
現在、キク科の植物「ヒゴタイ」の組織培養に挑戦しております。

ヒゴタイとは長崎県には2カ所にしか自生しておらず、大陸と陸続きだった頃の残存植物とされているもので、絶滅危惧種に指定されているものです。

この植物の茎から2.4-Dをもちいてカルス化まではできたのですが、NAAとKINやBAをつかって不定根や不定芽の分化をさせることができなくて研究も行き詰まっております。
何か良いアイデアがないでしょうか?

お忙しい中にこのような相談に時間をとらせて誠に申し訳ないのですが、アドバイスをお願いできないでしょうか。
土橋 敬一 様

「組織培養植物の器官分化について」の質問に答えます。(登録番号0459
兵庫教育大学の渥美茂明先生に回答していただきました。なお、キクの組織培養に関する質問(登録番号0455)があり、回答がでていますので参考になると思います。それもぜひ読んで下さい。

回答
 まず問題になるのは、カルスの状態です。脱分化が進みすぎて、見かけも均一な細胞塊になるようなカルスですと(ちょうどタバコのXD系統のような培養系統ですと)再分化は困難だと思います。
 逆に、新しい培地に植え継いでも、細胞がすぐに褐色や黒色に変わってしまう、あるいは培地が褐色になるようなカルスも扱い難いです。このような培養では、培地に活性炭や、デキストランあるいはPVPのような物質にフェノリックな代謝産物を吸着させることが有効である場合が知られています。

 私は、このような場合、サイトカイニンがオーキシンに卓越するいわゆる再分化培地に液体培地を使った震盪培養を行い、再分化させていました。あるいは、オーキシンとサイトカイニンを10:1ぐらいで含む液体培地で細胞を培養し、細胞系統の選抜を行いました。培地が急速に着色するようであれば、先ほど上げた、活性炭のようなものを培地に入れてみました。
 
 それでも、思い通りにならないときには、もう一度初代培養を試みました。特に、移植片を切り分け、組織構成が単純になるように(輪切りにした茎をそのまま培養するようなことは避けるように)心掛けました。上にふれた震盪培養は、由来する組織の異なる細胞系統を選りわける効果があったのかもしれません。

 野生植物を組織培養しようとすると、フェノリックな防衛物質やいわゆるアクが、傷口をはじめ傷ついた細胞や組織から大量に分泌されので、なかなか困難です。特に、キク科は乳管を持つものが大半ですので、扱い難いと思います。組織片(移植片)を液体培地で洗うことが有効かもしれません。

 サイトカイニンとオーキシンの濃度の問題以前に、培養の問題が大きいと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-01-22
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