一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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紅葉の順番について

質問者:   教員   けんぼぅい
登録番号4598   登録日:2019-12-02
 こんにちは、いつも楽しく拝見しています。先日校庭のカエデを眺めていると、紅葉が始まっていました。その際に樹木のてっぺんから根元にむかって徐々に紅葉しており、きれいなグラデーションとなっていました。(てっぺんが紅色、根元が緑色)
 このことから葉が紅葉するタイミングが一本の樹木内でも異なっていることがわかると思うのですが、紅葉の順番はどのようにして決まっているのでしょうか。そしてそのときの仕組みはどのようになっているのでしょうか。おわかりのことがあったらご教授ください。ちなみに以下のような仮説を考えたのですがいかがでしょうか…。

①てっぺんの葉から直接紅葉を促進する因子が作られ、下方に輸送された。
②てっぺんの葉で紅葉を抑制する遺伝子のはたらきを阻害する因子が作られ、下方に輸送された。
けんぼぅい 様

このコーナーをご利用いただきありがとうございます。
紅葉は、樹冠の上部から下部へ、枝先の葉から中心部の葉へ、一枚の葉においては葉先から葉の中心部へと、グラデーションをなして進行する過程のようですね。紅葉化は光合成機能の低下に伴うクロロフィルの分解とアントシアニンの合成・蓄積の結果ですので、ここに至る物質変換の過程においては関係する酵素の機能調節と遺伝子情報の発現制御が鍵となるものと思われます。
ところで、紅葉にグラデーションが生ずる原因としては、外的には温度や温度差あるいは日当たり(UV光など)の良しあしなど植物の外囲物理条件の違い、内的には光合成産物や水分の蓄積量など組織細胞の生理条件の違い(酵素活性を含む)が考えられます。実際、光の弱い日陰などでは紅葉が鮮明にならないことは良く知られています(外的要因として光が影響する例)。しかし、ご質問で観察されている条件下では外的要因における大きな差異は考えにくく、葉の生理条件の違いの方にグラデーションを生む主な原因があると考えるのが理にかなっているように思えます。ただし、紅葉化のグラデーションが、枝先の葉で作られる何らかの「紅葉促進因子」の輸送の遅れに由来するとの考え(仮説1)、また、何らかの遺伝子の働きによって紅葉化が抑制されている組織において機能する枝先生産性の「遺伝子機能阻害因子」の輸送の遅れによるとの考え(仮説2)は、ともに、現段階では実証には至っていないように見えます。紅葉化に寒暖の差が重要であることに何かのヒントがあるのかも知れませんが、寒さが急激に進行して物質輸送を含めた生理活性が大きく低下する条件下で紅葉がいっせいに広がることから考えると、枝先で生産される物質の下方輸送に原因を求める二つの仮設には少し無理があるように私には思えます。

以上、紅葉のグラデーション形成の仕組みについての端的な答えにはなっておりませんが、ご質問への回答とさせていただきます。なお、本質問コーナーには紅葉に関するQ/Aは多く、また、紅葉のグラデーションを考える上で多少役立つかも知れないQ/Aもいくつか掲載されておりますので、ご参照ください(例えば、登録番号4574, 3396, 3171, 3159)。



佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-12-11
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