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グルタミン合成酵素とATPについて

質問者:   教員   のまみ
登録番号4602   登録日:2019-12-15
いつも「みんなのひろば」で疑問を解決して頂き、大いに教材研究の役に立っております。ありがとうございます。高校の専門生物の授業で窒素同化について教えています。資料集では植物体内で還元されたアンモニウムイオンが、グルタミン合成酵素によってグルタミン酸の側鎖のOHをNH2にして、グルタミンが合成される過程に「ATPのエネルギー」と書いてあります。ヒトの消化酵素などはATPを必要としない、ということで頻繁にマーク式の問題などで聞かれているので、このグルタミン合成酵素の反応にどのようにATPが関わっているのかを知りたくて質問しました。ウィキペディアなどを読んでみましたが、ATPからリン酸基が移されるというような記述があって、それだけ見るとリン酸基を移すためにATPを用いているのか?というような印象を受けました。分かりやすく教えて頂けると幸いです。
のまみさん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生物界、無生物界を問わず、化学反応の向きを決めているのは、自由エネルギーの大小です。自由エネルギーは、化学的位置エネルギーともいうべきものです。自然科学でこの分野の研究をするのは化学熱力学で、生物学では生体エネルギー論がこの分野の問題を扱います。

物理的位置エネルギーを考えてみましょう。ダムにたまった水(Pとします)は、麓の水(Qとします)に比べて高い位置にあり、位置エネルギーが高いといいます。水は、PからQに向かって流れるのが自然の方向です。水力発電所では、PとQの落差を利用して、位置エネルギーを電気エネルギーに変換することができます。逆に、低い位置にある水を高い位置に送るには、たとえばポンプを利用し、動力として電力や重油などのエネルギーを投入する必要があります。物質としては同じ水ですが、自然界では位置のエネルギー減少の向きにしか自発的運動は起こりません。

生物界で、グルコースの光合成による合成と、細胞呼吸による分解について比較してみましょう;

光合成:6CO2 + 6H2O + [投入エネルギー(具体的には、光のエネルギーが酸化還元のエネルギーに変換され、さらに後者の一部はATPのエネルギーに変換される] → C6H12O6 (グルコース) + 6O2

呼吸:C6H12O6 (グルコース) +6O2 → 6CO2 + 6H2O +[生物にとって利用可能な形のエネルギー(具体的には、ATPの化学的エネルギー等)]。

原子の収支だけに着目すれば、A[6CO2+ H2O]もB[C6H12O6 + 6O2]も同じ種類と数の原子が関係していますが、化学的エネルギーはBの方がAよりも大きいので、反応をAからBの方向に進めるにはエネルギーの投入が必要です。光合成の炭素同化経路では、CO2を還元するための還元剤の他に、ATPの化学エネルギーを必要とします。

質問の化学反応についても同様です:A[NH3+グルタミン酸]とB[グルタミン+H2O]も原子の種類と数は同じですが、化学的位置エネルギー(自由エネルギーといいます)の比較では、後者の方が前者よりも大きいので、A → Bの向きの反応は自発的には起きません。しかし、適当な化学的エネルギーを組み入れると、逆向きの反応を起こすことができます;C[ATP + H2O] → D[ADP+Pi(リン酸)]:この反応ではCの方がDよりも自由エネルギーが大きいので、E[反応AとC]の組み合わせとF[反応BとD]の組み合わせを比較したとき、Eの自由エネルギーがFの自由エネルギーよりも大きくなれば、反応をEからFの方向、すなわちグルタミンの合成方向に進めることができます。(さらに細かく説明すると、グルタミン酸とATPが酵素グルタミンシンターゼの上で、グルタミルリン酸-酵素複合体を形成し(この際にADPができます)、これとNH3が反応して、グルタミンとリン酸と遊離の酵素となって反応が完結します)

自然界で起こる物質の化学変化は、生物、無生物を問わず、自由エネルギー減少の方向にしか起こりえず、生物は自由エネルギーの落差を利用して生命活動を営んでいるわけです。

なお、質問の消化酵素の場合は、たとえば、G[デンプン+nH2O]とH[(n+1)グルコース]について自由エネルギーを比較すると、Gの方がHよりも自由エネルギーが大きいので、加水分解にATPの消費は必要ありません。



櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-01-03
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