一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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木の硬さ

質問者:   会社員   樫 太郎
登録番号4606   登録日:2019-12-22
こんにちは。いつも楽しく拝見しています。
以前、シラカシ材とスギ材をのこぎりで切る機会があったのですが、カシがとても硬く、切るのに難儀しました。
木の硬さはどのような成分によって決まるのでしょうか?また、同じ樹木でも成長の仕方等で硬さにバラツキは出るのでしょうか?
樫 太郎さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
木材は我々の日常生活において欠かせない材料ですね。建材、家具、楽器、工芸品など数え上げたらキリがない程多くのことに用いられています。それは木材の種類(樹種)によって性質が大きく異なり用途の幅が広いこと、機械的に丈夫で加工しやすいことによります。国産材、輸入材を含めると日本で使用されている木材は数百種以上あると思いますが丈夫さ(硬さ、耐久性など)には大きな幅があります。樹種によって非常に硬い木材から非常に柔らかいものまであります。さらに同じ樹種でも生育環境によって木材の性質は異なります。木材の硬さ、柔らかさは木材に含まれる空隙の多さ、つまり材の密度(あるいは比重)と相関があります。木材は、樹木の茎(幹)の二次木部に相当します。樹木の茎は、外側から樹皮、形成層(維管束形成層が輪状につながったもの)、二次木部、中心に髄(一次木部)で構成されており、形成層が細胞分裂を繰り返して、内側に向かって木部細胞(導管要素、仮導管要素)を、外側に向かっては篩部細胞を作り続けます。その結果、茎(幹)は太く肥大します。細胞分裂によって追加される木部細胞の配置(他の細胞との位置関係)、細胞壁の厚さ、細胞間隙の大きさ、量などは樹種によって異なるので材の密度も樹種によって大きく違うことになります。
一定条件の下で水分15%程度まで乾燥させた木材の比重を見ると、
Guaiacum officinale(lignum-vitae、生命の木の意味、ハマビシ科、もっとも硬い木材):1.2~1.3
コクタン(エボニー Diospyros属の数種 カキノキ科):1.1~1.2、
ツゲ(Buxus mivrophylla var.japonicaツゲ科):0.75~1.14、
ビャクダン(Santalum album、ビャクダン科):0.95~0.99、
シラカシ(Quercus myrsinaefolia、ブナ科):0.83、
タガヤサン(Senna siamea、鉄刀木、マメ科):0.80
などの非常に硬い木から 
スギ(Cryptomeria japonica, ヒノキ科):0.38、
キリ(Paulownia tomentosa, キリ科):0.19~0.30、
バルサ(Ochroma lagopus, パンヤ科、もっとも軽く、柔らかい木材):0.12~0.20
まであり、その他の木材はこれらの中間の比重をもっています。

これらの材の細胞壁の平均組成は、広葉樹、針葉樹を問わず、セルロース40~50%、ヘミセルロース25~30%、リグニン25~30%で大きな差はありません。と言うことは特定の成分が硬さを決めているのではなく、細胞の詰まり方が硬さ、強度を決めていることになります。実際に、木材を煮沸高温下に圧縮すると、材の中にあった空気、自由水が除かれ体積は数分の一に圧縮され、強度は数倍に上がることが実証されています。近年、特殊処理で木材から得たセルロース・ナノ繊維を圧縮成形すると、その引っ張り強度は鋼鉄よりも大きくなると言う研究結果も報告されています。主としてはセルロース分子が水素結合で結合し、結晶化しただけでもその素材は予想を超える強度を出すことのようです。
https://www.wood-museum.net/hardness.php
は木材の強度、比重、色などをまとめたサイトでご参考になると思います。



今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-01-08
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