一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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核や葉緑体の分離濃縮

質問者:   会社員   サチコ
登録番号4615   登録日:2020-01-16
あるDNAマーカーが核、葉緑体、ミトコンドリアのどのゲノム上にあるかを確認したい。
その場合、オルガネラを分離もしくは濃縮除去して比率を高めたのち、PCRを掛ける方法がある。分離、濃縮方法は密度勾配遠心があるが、超遠心が必要。
もっと簡単に分離する方法はないのでしょうか。また、分離→PCRの流れ以外に確認する方法はないのでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。
サチコさんへ

このコーナーをご利用下さりありがとうございます。ご質問には岡山大学資源植物科学研究所の坂本先生から下のような回答文をいただきましたのでご参考になさって下さい。

【坂本先生からの回答】
ご質問の通り、植物細胞のDNAは、核、葉緑体、ミトコンドリアにあり、どこにあるかを決めるやり方としては、それぞれのオルガネラを単離する方法があります。ただし、このような生化学的精製はサチコさんのおっしゃる通り大変です。また、厳密に言うと、オルガネラを単離するときに細胞の破砕が重要になり、破砕が強すぎると核のDNAが単離されたオルガネラ膜に付着してしまって、ミトコンドリアを精製したのに核DNAが混ざってしまうこともあります。ということで、より簡単に判別する方法としては、以下の方法が考えられます。

(1)ミトコンドリアと葉緑体のゲノムは、これまでに多くの種で配列が決められています。例えば、オルガネラゲノムデータベース(http://gobase.bcm.umontreal.ca)などに一覧があります。DNAマーカーの塩基配列と、これらのゲノム配列とで相同性を検索し、合致するものがあるかどうかを調べることで、ある程度、予想ができるはずです。

(2)葉緑体ゲノムとミトコンドリアゲノムは、多くの場合、母性遺伝します。DNAマーカーのパターンが異なる両親を見つけて交配し、そのF1を調べて見ると、核ゲノムであれば、両方が混在し、葉緑体かミトコンドリアであれば、母親からのマーカーのみが検出されます。葉緑体とミトコンドリアの区別ができませんが、遺伝様式で核と区別することが可能です。

(3)葉緑体ゲノムやミトコンドリアゲノムは、核ゲノムに比べ、細胞当たりのゲノムコピー数が多いことが知られています。そのため、PCR(もしくはサザンハイブリダイゼーション)をすると、核のDNAに比べて著しく増幅されやすい場合があります。このような場合は、葉緑体かミトコンドリアにある可能性が考えられます。

ざっと思いつく方法を書いてみましたが、もう1つ注意すべきことがあります。それは、植物によって、ミトコンドリアゲノム全体が核DNAの中に入り込んでいる例も多く報告されていることです。そうすると、配列だけではどちらから来ているかは区別できないことになってしまいます。したがって、上述した方法を組み合わせながら調べていくことになりますが、(1)の相同性検索である程度の予想ができ流のではないかと思います。




坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-01-28
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