植物Q&A

チェックリストに保存

植物の状態の名前について

質問者:   高校生   けんとってぃー
登録番号4633   登録日:2020-02-01
こんにちは。
植物の状態の用語について質問します。
植物が水を吸収するスピードの実験をしているのですが、植物の状態を示す専門用語がわからないので教えてください。
植物が水不足で萎れている状態に生物学でつけている用語はありますか?また、シャキッとしている状態の用語もありますか?
(ガーデニング業界では水が下がったというみたいなのですが、それと同じなのでしょうか?)
けんとってぃーさん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
回答は植物生態学の研究が専門の寺島一郎博士(東京大学大学院理学系研究科教授)にお願いしました。

【寺島先生のご回答】
植物生理学の教科書には、植物が水不足でしおれている状態を表す用語として、「萎れ(しおれ)」、「萎凋」などが出てきます。また、シャキッとしている状態は、植物の細胞が水をよく吸収してパンパンになっている状態です。この状態のことは、「最大膨潤」などといいます。英語はfully turgidです。この回答中、植物生理学の教科書でよく用いられる用語には「」を付けました。しおれについては、過去の「みんなの広場」(登録番号1195)をご覧ください。

生理食塩水中ではきれいに形を保っている赤血球を低張液にさらすと、赤血球は膨潤してやがて破裂し溶血がおこります。赤血球内部にはイオンなどのさまざまな溶質が含まれているので、水が細胞膜を透過して細胞に大量に入ってしまい細胞がとめどもなく大きくなるからです。植物の細胞は、ゴムのように弾性をもった細胞壁で囲まれていますので、水を吸って細胞が膨らむ力である「膨圧」と、ふくらみを抑える、細胞壁の伸展により発生する弾性力、「壁圧」、とが釣り合うところで見かけの水の出入りがない状態となります。細胞のまわりが純水の場合に「最大膨潤」状態となり、膨圧や壁圧も最大値となります(これを気圧の単位で表すと、タイヤの内圧約2気圧の数倍程度です)。細胞壁の主成分であるセルロースなどは引っ張りに強い多糖類としてよく知られています。

細胞壁の薄いタイプの植物(一年生草本などに多い)では、よく膨潤した細胞同士が連結していることで形態が保たれています。ホウレンソウの葉などを乾燥した部屋の机の上におくと、空気の抜けた風船のように机にぺったりとはりつきます。一方、丈夫な落葉樹や常緑樹の葉は、乾燥してもその形を保っています。このような寿命の長い植物では、葉の細胞壁が厚く硬いためでいます。私(回答者)は、前者の形態維持を風船型、後者を外骨格型と名付けています(一般的に用いられている言葉ではありません)。

ご質問にもあるように、園芸業界や華道「水が下がった」とか「水下り」などというようですね。植物生理学の教科書では、「水が下がる」は見かけません。でも、いい言葉だと思います。ご存じのとおり、植物体内で水が通るのは、道管、仮道管とよばれる死細胞からなる管です。これらの細胞は「木部」の主要な構成要素です。土壌に水が十分にあり、乾燥が厳しくないときには道管や仮道管は水で満たされています。蒸散によって大気に水が奪われて乾燥した葉の細胞が、道管や仮道管から水を吸収すると、道管や仮道管のなかでは水が順次、下から引き上げられます。水分子間の水素結合による「凝集力」が強いのでこのような引っ張り上げが可能なのです。この張力あるいは「木部負圧」によって、根の外側の土壌水が吸収されます。木部負圧を気圧の単位であらわすと、乾燥時の高木の先端あたりでは、マイナス数十気圧にもなります。このように植物の体の中には大きな陽圧を示す部分と負圧を示す部分が混在するのです。

乾燥が厳しい場合、あるいは、寒さのために木部の水が凍結融解を繰り返すと、土壌から葉までをつなげる道管や仮道管内の水に気泡が入ってしまい、水の柱がプツンと切れてしまいます(実際の音はプツンではありませんが、実際にマイクロフォンで音をとらえることもできます)。この現象を「木部閉塞」あるいは英語embolismのまま「エンボリズム」とよびます。この状態では、水を上げることができません。まさに、水が下がった状態です。地上部は水を失いしおれてしまいます。華道では、花や葉に噴霧して湿らせたり、花や葉の数を減らした後、茎の部分を水切りして、再び水上げするようにします。野外の植物は、蒸散のおこらない夜間に、「根圧」によって木部に水を最充填します。根圧については、「みんなの広場」でわたくしが以前に説明したものがありますので、参照してください(登録番号3610)。また、木部の生きている細胞から道管内の閉塞部に糖を排出し、閉塞部に残った水の溶質濃度を高めてよび水をすることにより閉塞状態を解消するメカニズムもはたらいているようです。厳しい環境で生きている植物にとって、水上げは大きな課題であり、その詳細なメカニズムの解明が行われています。


寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2020-02-16
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内