質問者:
その他
滝川 拓海
登録番号0464
登録日:2006-01-12
植物はストレスを感じるんですか?ストレス
もし、感じるのならどんなことに対して感じるんですか?
滝川 拓海 様
他の生物と同じように植物も多くの種類のストレスを受けています。ヒトもいろいろな面でストレスを受けていますが、現在の日本では、ヒトが生きていく上で最も重要な食物があまり不足せず、寒さを防ぐ衣服や暖房などもあるため、ストレスといえば精神的なストレスだけを考えがちです。しかし、植物は太陽光をエネルギー源として光合成によって有機物を合成し、それによって自分自身の体を作り上げていかなければならないため、植物が生えている周りの環境の影響を受け、植物は常に環境ストレスにさらされているといってもよいでしょう。さらに植物は動物と違って動くことができないため、移動によってこのようなストレスから逃れることができず、植物は環境ストレスを最も直接に受けやすい生物です。そのいくつかの例を考えてみましょう。
1) 温度
ヒトの体温はほぼ一定に保たれていますが、植物の細胞内温度は気温の影響を直接に受けます。ヒトは体温が2 - 3度でも高くなると大変ですが、植物の細胞は昼間と夜の温度差からみて10度以上の日変化があります。この温度差のストレスを、昼間、葉では蒸散作用によってある程度まで調節できますが、完全になくすることはできません。そのため、植物は温度の日変化があっても細胞の機能があまり変化しないよう(失われないよう)になっています。
温度が高くなると細胞内の酵素やたんぱく質が変性しその機能が低くなるため、それを防ぐたんぱく質(ヒートショックたんぱく質)が合成され、これによって酵素などの変性を防ぎ高温ストレスを防御しています。また、気温が氷点以下になったとき、糖を細胞内に蓄えて氷ができないようにしている場合もあります。
2) 水
ヒトが水を必要とするように植物の生育にも水が絶対に必要です。水は土から無機養分を吸収し、根から地上部に移動させるためにも、葉の温度を調節する蒸散作用のためにも、さらに細胞の代謝のためにも必要です。植物の生態的な分布は、砂漠にあまり植物が生えないことにみられるように、雨量によって大きく異なります。雨が降らなければ植物は水ストレスにさらされますが、このとき水が体内から失われないように気孔を閉じます。これによって無機養分の土からの移動が妨げられ、葉の温度が調節できなくなり、さらに光合成に必要な二酸化炭素が葉の細胞に吸収できなくなり光合成速度が低下するなど、水ストレスによって植物はいろんな面でさらに大きくストレスを受けるようになります。
3)太陽光の強さ
二酸化酸素の光合成による固定に太陽の光は必要ですが、しかし、太陽の光の強さ(照度)は一定ではありません。一日のうちでも、また、天候によっても大きく変動します。植物は二酸化炭素の固定能力にちょうど見合うだけの光の強さであれば、太陽光のエネルギーをうまく利用できますが、それ以上に太陽光が強すぎると、過剰の光エネルギーによって活性酸素のような細胞に害を与える有害な分子が生じてきます。植物はその害をなくするため、活性酸素を消してしまう仕組みをもち、これによって強光ストレスに対処しています。太陽光によるヒトの皮膚の日焼け(炎症)も、生物に対する光ストレスの一例です。なぜ、植物の葉がずっと太陽光にさらされていながら、ヒトの皮膚に比べ日焼けを受けにくいかを考えて下さい。
5)無機養分
植物が生育できるためには、光合成に必要な太陽光、二酸化炭素、水の他に、土から窒素、リン酸、カリウムを初め合計14種の元素(無機養分)が必要です。これらすべての元素が土の中に適当な量、適当な割合で含まれていれば植物は大きく生育できますが、これらの量が少ない、割合が不適当な場合、無機養分ストレスによって生育が制限され、極端な場合、生育ができなくなります。これに対し、植物は土の中で無機養分のあるところまで根を伸ばす、根から有機酸などを放出して土の無機養分を利用できる形にするなどの方法で対処しています。農地では収穫物の形で無機養分が土から取り去られるため、肥料の形で無機養分を土に補給しなければ高い収穫は望めません。
6)病気
ヒトが病原微生物、ウイルスなどに感染すると病気になるように、植物も上に述べた物理的、化学的ストレスに加え、他の生物によるストレスも受けています。植物も、ヒトと同じように、これら病原微生物、ウイルスによる感染、さらに発病を防御する機能をもっていますが、それでも発病してしまうと、農作物などでは大きな被害を受けます。
7) 公害ガス
ヒトが環境に放出している自動車の排気ガス、その他の公害ガスはヒトと同じように、植物とってもストレスになっています。
以上のように、動くことのできない植物はそれが生育している環境ストレスを、ご質問にあるようにいつも感じて、それにすばやく対処して環境ストレスからできるだけ逃れ、生存を図っていると考えてよいでしょう。
他の生物と同じように植物も多くの種類のストレスを受けています。ヒトもいろいろな面でストレスを受けていますが、現在の日本では、ヒトが生きていく上で最も重要な食物があまり不足せず、寒さを防ぐ衣服や暖房などもあるため、ストレスといえば精神的なストレスだけを考えがちです。しかし、植物は太陽光をエネルギー源として光合成によって有機物を合成し、それによって自分自身の体を作り上げていかなければならないため、植物が生えている周りの環境の影響を受け、植物は常に環境ストレスにさらされているといってもよいでしょう。さらに植物は動物と違って動くことができないため、移動によってこのようなストレスから逃れることができず、植物は環境ストレスを最も直接に受けやすい生物です。そのいくつかの例を考えてみましょう。
1) 温度
ヒトの体温はほぼ一定に保たれていますが、植物の細胞内温度は気温の影響を直接に受けます。ヒトは体温が2 - 3度でも高くなると大変ですが、植物の細胞は昼間と夜の温度差からみて10度以上の日変化があります。この温度差のストレスを、昼間、葉では蒸散作用によってある程度まで調節できますが、完全になくすることはできません。そのため、植物は温度の日変化があっても細胞の機能があまり変化しないよう(失われないよう)になっています。
温度が高くなると細胞内の酵素やたんぱく質が変性しその機能が低くなるため、それを防ぐたんぱく質(ヒートショックたんぱく質)が合成され、これによって酵素などの変性を防ぎ高温ストレスを防御しています。また、気温が氷点以下になったとき、糖を細胞内に蓄えて氷ができないようにしている場合もあります。
2) 水
ヒトが水を必要とするように植物の生育にも水が絶対に必要です。水は土から無機養分を吸収し、根から地上部に移動させるためにも、葉の温度を調節する蒸散作用のためにも、さらに細胞の代謝のためにも必要です。植物の生態的な分布は、砂漠にあまり植物が生えないことにみられるように、雨量によって大きく異なります。雨が降らなければ植物は水ストレスにさらされますが、このとき水が体内から失われないように気孔を閉じます。これによって無機養分の土からの移動が妨げられ、葉の温度が調節できなくなり、さらに光合成に必要な二酸化炭素が葉の細胞に吸収できなくなり光合成速度が低下するなど、水ストレスによって植物はいろんな面でさらに大きくストレスを受けるようになります。
3)太陽光の強さ
二酸化酸素の光合成による固定に太陽の光は必要ですが、しかし、太陽の光の強さ(照度)は一定ではありません。一日のうちでも、また、天候によっても大きく変動します。植物は二酸化炭素の固定能力にちょうど見合うだけの光の強さであれば、太陽光のエネルギーをうまく利用できますが、それ以上に太陽光が強すぎると、過剰の光エネルギーによって活性酸素のような細胞に害を与える有害な分子が生じてきます。植物はその害をなくするため、活性酸素を消してしまう仕組みをもち、これによって強光ストレスに対処しています。太陽光によるヒトの皮膚の日焼け(炎症)も、生物に対する光ストレスの一例です。なぜ、植物の葉がずっと太陽光にさらされていながら、ヒトの皮膚に比べ日焼けを受けにくいかを考えて下さい。
5)無機養分
植物が生育できるためには、光合成に必要な太陽光、二酸化炭素、水の他に、土から窒素、リン酸、カリウムを初め合計14種の元素(無機養分)が必要です。これらすべての元素が土の中に適当な量、適当な割合で含まれていれば植物は大きく生育できますが、これらの量が少ない、割合が不適当な場合、無機養分ストレスによって生育が制限され、極端な場合、生育ができなくなります。これに対し、植物は土の中で無機養分のあるところまで根を伸ばす、根から有機酸などを放出して土の無機養分を利用できる形にするなどの方法で対処しています。農地では収穫物の形で無機養分が土から取り去られるため、肥料の形で無機養分を土に補給しなければ高い収穫は望めません。
6)病気
ヒトが病原微生物、ウイルスなどに感染すると病気になるように、植物も上に述べた物理的、化学的ストレスに加え、他の生物によるストレスも受けています。植物も、ヒトと同じように、これら病原微生物、ウイルスによる感染、さらに発病を防御する機能をもっていますが、それでも発病してしまうと、農作物などでは大きな被害を受けます。
7) 公害ガス
ヒトが環境に放出している自動車の排気ガス、その他の公害ガスはヒトと同じように、植物とってもストレスになっています。
以上のように、動くことのできない植物はそれが生育している環境ストレスを、ご質問にあるようにいつも感じて、それにすばやく対処して環境ストレスからできるだけ逃れ、生存を図っていると考えてよいでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-01-30
浅田 浩二
回答日:2006-01-30