一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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なぜ発芽温度はほぼ同じなのか

質問者:   自営業   じゃけ
登録番号4640   登録日:2020-02-04
植物を種から育てるのは楽しいですね。
さて、大多数の植物の種は温度管理下で20~25度ぐらいの温度の範囲内で発芽します(と書いてあります)。
世界中のいろいろな所に生えている植物ですが、なぜ実生の適正温度は似通っているのでしょう?
植物の細胞が活性化しやすい温度のような物があるのでしょうか?
じゃけ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご指摘のように私たちが扱う大抵の植物の種子は20〜25℃位でほとんどが発芽しますね。種子の発芽は植物にとってきわめて重要な繁殖の第一歩です。一旦発芽すると、芽生えは移動するわけにはいきませんから、適切な環境が維持されないと成長が続けられないし、死んでしまうこともあります。
したがって、植物はいつ、つまり、どんな環境条件になると発芽したら良いかを知って(擬人的表現ですが)います。発芽だけでなく花芽形成、開花などもそうです。種子の発芽と温度との関係を調べた研究はたくさんあり、普通、最低温度域、最適温度域、最高温度域を調ベています。その一例は本質問コーナーの登録番号0452に掲載してありますのでご覧ください。ほとんどの植物はかなり幅広い温度域で発芽が可能ですが、一番発芽しやすい温度は概ね25℃前後と言っていいでしょう。
しかし、表の中のイネ、キュウリの他にトウモロコシ、メロンなど熱帯系の植物は全体的に高温域で発芽します。適温はいずれも35℃前後です。これらの違いはこれらの植物が進化の過程でどのように環境に適応してきたかと関係しているのでしょう。もっとも現在園芸・作物などで利用されている植物は、人が育種によって作り変えてきたものですから、野生の性質をそのまま維持しているとは限りません。
次に「植物の細胞が活性化しやすい温度のような物があるのでしょうか?」という質問ですが、答えは「そうです。」生物の細胞の活動は生化学反応によっています。細胞内の生化学反応のほとんどはそれぞれ特定の酵素によって触媒されており、これらの酵素反応は温度の影響を受けます。一般に低ければ反応は遅いし、高過ぎても駄目です。厳密に言うとそれぞれの酵素にも適温の範囲があります。同じ酵素でも種によって若干性質は異なります。発芽の過程は給水から始まり、乾燥していた種子の細胞が水分を得ると、休んでいた酵素が活性化されます。種子ではそれによってデンプン、脂肪、タンパク質などの貯蔵物質が加水分解されて、糖、脂肪酸、アミノ酸など胚の成長に必要な養分が供給されるのです。したがって、種子の発芽と温度との関係は概ねこのような酵素反応の進行のしやすさと関係していると言ってよいでしょう。
なお、発芽と温度との関係はもっと複雑なこともあります。ある種の種子は種子が形成されてから発芽が可能となるためには、一定の期間の低温処理(0℃付近)が必要な場合があります(低温要求種子)。このことに関しては本質問コーナー登録番号2542,2261及びそこに紹介されている番号を参照ください。また、春に種子ができるものの中には、例えば、アブラナ科のカンディス(Thlaspi perfoliata)、ヒメナズナ(Draba verna)などは秋に発芽するために、夏の暑い温度を経験しないと駄目です。さらに、温度ではありませんが、光がないと発芽しにくいし(光発芽種子)、あるいは暗い方が望ましい種子(暗発芽種子)もあります。登録番号2895,2798及びそこに紹介されている番号を参照してください。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-02-12
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