一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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サクラの寿命

質問者:   会社員   jeans.t.t
登録番号4641   登録日:2020-02-05
サクラの種類ごとの寿命について調べたいというレファレンスを受けて本を探していましたが、適当な資料が見つかりません。ソメイヨシノは接ぎ木をして増やしてきたとも聞きますので、そもそも樹木に寿命という考え方はあるのだろうかとも思います。そのあたり教えていただければありがたいです。
Jeans.t.t 様

質問コーナーをお利用くださりありがとうございます。
ご質問には森林総合研究所多摩森林科学園チーム長(サクラ保全担当)の勝木俊雄博士から下記のような回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。

【勝木博士からの回答】
サクラの寿命については、よく‘染井吉野’が短命だと言われておりますが、かなり誤解されている部分が多いように感じます。

まず、「樹木の寿命」についての定義がはっきりしていません。人間の寿命として平均余命がよく用いられますが、誕生してすぐに死亡することが多い生物では、通常最大年齢を寿命として扱います。当然、生育環境によっても死亡する年齢は大きく変化します。自然の厳しい環境下における野生生物と、人が適切な環境を整える栽培・飼育下の生物とでは、最大年齢は全く異なります。栽培・飼育下の生物の寿命を生理的寿命ということもあります。さらに、樹木ではそもそも年齢の数え方すら曖昧です。
挿し木や接ぎ木の場合のようなクローン増殖はしばしば生じますし、株立ち状の樹木ですと株年齢と幹年齢は異なることが普通です。

「樹木の寿命」について考える場合、これらを整理して考える必要があります。生理的な最大年齢に限界があるかは、まだはっきりしていませんが、動物の制限要因となっているテロメアは植物にはあてはまりません。一方、現在、年輪を用いて正確に確認された樹木の最大年齢(幹年齢)は米国のネバダイガゴヨウマツの約4,900年で、無限というわけでもありません。通常、自然環境下ですと、災害や幹の腐朽などの外的な要因によって枯損します。したがって、人が適切な環境を整えれば、さらに長生きする可能性はあるでしょう。

‘染井吉野’に関しては、福島県郡山市の開成山公園の‘染井吉野’の樹齢が現在およそ140年で、幹年齢としては最も高齢と考えられています。すぐに枯死するような状態でもないので、‘染井吉野’の最大年齢は今後も更新されていくと思われます。

なお、こうした樹木の寿命に関しては次の書物にまとめていますので、よろしければご覧になって下さい。(書物)勝木俊雄 (2019) 樹木の寿命. 樹木医学研究 23:239-247.




勝木 俊雄(森林総合研究所多摩森林科学園)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-02-14