質問者:
教員
あれ
登録番号4661
登録日:2020-03-08
代謝の勉強を自分で行なっているときに気になったことがありますのでお答えいただけると幸いです。みんなのひろば
PEPカルボキシラーゼについて
C4植物やCAM植物は低CO2の環境下でも効率よく光合成を行うことができるように空間的、時間的にCO2をPEPCで取り込むと思います。PEPCがリン酸化制御を受けることを別の質問で確認しました。
そこで気になったことがC3植物にもPEPCは存在するのかどうか、存在するのであれば局在がどのようになっているのか、という点です。
PEPもPEPCによってできるオキサロ酢酸も呼吸に出てきますし、持っていても不思議ではないですが、もしストロマに局在するようならルビスコと競合してしまうと思い、どうなっているのかと気になった次第です。よろしくお願いします。
あれさん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
これまでに多くの植物について全ゲノムが解読されていますが、C3、C4を問わずいずれもPEP(ホスホエノールピルビン酸)カルボキシラーゼ遺伝子を持っています。PEPカルボキシラーゼは、ホスホエノールピルビン酸とCO2を結合させて、オキサロ酢酸を合成し、オキサロ酢酸はアスパラギン酸や多くの化合物の炭素骨格となります。オキサロ酢酸はミトコンドリアのTCAサイクルの一員ですが、オキサロ酢酸が他の反応経路に使われるとTCAサイクルが回らなくなるので、補充反応が必要です。PEPカルボキシラーゼは、細胞の細胞質ゾルにあります。
光合成では有機化合物の合成にCO2を利用しますが、陸上植物は大気中のCO2を気孔から取り入れます。気孔を開くと植物体の水が気孔から大気中に失われますが(蒸散)、大気が乾燥していて相対湿度が低いほど、蒸散によって失われる水分量も多くなります。植物の主要なCO2固定化酵素はC3型ではRuBPカルボキシラーゼで、固定されたCO2は有機物に合成されます[反応A]。C4型のCO2固定化酵素はPEPカルボキシラーゼで、その働きによりCO2は葉肉細胞で一旦オキサロ酢酸に固定されたのち[反応B]、維管束細胞に運ばれて分解されてCO2を放出し、そこで有機物に合成されますが後者の反応経路は[反応A]と同じです。C4型には[反応B]という反応が付け加わっており、余分なATPの消費が必要なので、全体の最高エネルギー効率はC3型に比べて低くなります。一方、2種類のCO2固定化酵素のCO2に対する親和性を比較すると、PEPカルボキシラーゼの方がCO2に対する親和性が高いです。CO2を取り込むためには気孔を開く必要がありますが、この際に植物細胞の水分が大気中に失われます(蒸散)。現在の大気中のCO2濃度はRuBPカルボキシラーゼにとって十分に高くはないので、CO2に対する親和性の高いC4型の方が、CO2吸収のために気孔を開いた時の水分の損失が少なくて済みます。地理的条件では、比較的乾燥して気温の高い環境で、C4植物のように余分なエネルギーを消費してもCO2に対する親和性の高いことが生存競争上有利に働きます。(なお、本「植物Q&A」で「C4光合成」で検索すると回答がたくさん出てきます。登録番号3422などが参考になるでしょう)。
進化の歴史では、C4型は新生代になってからC3型から派生したと考えられます。その系統学的分布には統一性がなく、極端な場合は、同じ属に属する種で、あるものはC4型であるものはC3型だという例も多数あります。この事実は、おそらく次のように説明すると納得できると思います。恐竜が絶滅した中生代の次に、今から約6500万年前から新生代が始まりますが、大気中のCO2濃度は中生代に比べて全体として次第に低くなっていったといわれています。系統分化がある程度進んだ段階で、植物はCO2濃度低下の事態に遭遇し、あるものは、すでに持っていた代謝系に若干の変更を加えることにより環境に適応したものへと進化していったと考えられます。様々な代謝系の修正により、あるものはC4型へと分化してきましたが、結果として、その修正法はPEPカルボキシラーゼを利用するものでした(細かく見ればC4型にもいろいろなバリエーションがあります)。植物が互いに情報交換をしたわけでもないのに、対応方法は、すでに持っている潜在能力を修正したC4型という結果が、全体として同じような方向だったといえましょう。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
これまでに多くの植物について全ゲノムが解読されていますが、C3、C4を問わずいずれもPEP(ホスホエノールピルビン酸)カルボキシラーゼ遺伝子を持っています。PEPカルボキシラーゼは、ホスホエノールピルビン酸とCO2を結合させて、オキサロ酢酸を合成し、オキサロ酢酸はアスパラギン酸や多くの化合物の炭素骨格となります。オキサロ酢酸はミトコンドリアのTCAサイクルの一員ですが、オキサロ酢酸が他の反応経路に使われるとTCAサイクルが回らなくなるので、補充反応が必要です。PEPカルボキシラーゼは、細胞の細胞質ゾルにあります。
光合成では有機化合物の合成にCO2を利用しますが、陸上植物は大気中のCO2を気孔から取り入れます。気孔を開くと植物体の水が気孔から大気中に失われますが(蒸散)、大気が乾燥していて相対湿度が低いほど、蒸散によって失われる水分量も多くなります。植物の主要なCO2固定化酵素はC3型ではRuBPカルボキシラーゼで、固定されたCO2は有機物に合成されます[反応A]。C4型のCO2固定化酵素はPEPカルボキシラーゼで、その働きによりCO2は葉肉細胞で一旦オキサロ酢酸に固定されたのち[反応B]、維管束細胞に運ばれて分解されてCO2を放出し、そこで有機物に合成されますが後者の反応経路は[反応A]と同じです。C4型には[反応B]という反応が付け加わっており、余分なATPの消費が必要なので、全体の最高エネルギー効率はC3型に比べて低くなります。一方、2種類のCO2固定化酵素のCO2に対する親和性を比較すると、PEPカルボキシラーゼの方がCO2に対する親和性が高いです。CO2を取り込むためには気孔を開く必要がありますが、この際に植物細胞の水分が大気中に失われます(蒸散)。現在の大気中のCO2濃度はRuBPカルボキシラーゼにとって十分に高くはないので、CO2に対する親和性の高いC4型の方が、CO2吸収のために気孔を開いた時の水分の損失が少なくて済みます。地理的条件では、比較的乾燥して気温の高い環境で、C4植物のように余分なエネルギーを消費してもCO2に対する親和性の高いことが生存競争上有利に働きます。(なお、本「植物Q&A」で「C4光合成」で検索すると回答がたくさん出てきます。登録番号3422などが参考になるでしょう)。
進化の歴史では、C4型は新生代になってからC3型から派生したと考えられます。その系統学的分布には統一性がなく、極端な場合は、同じ属に属する種で、あるものはC4型であるものはC3型だという例も多数あります。この事実は、おそらく次のように説明すると納得できると思います。恐竜が絶滅した中生代の次に、今から約6500万年前から新生代が始まりますが、大気中のCO2濃度は中生代に比べて全体として次第に低くなっていったといわれています。系統分化がある程度進んだ段階で、植物はCO2濃度低下の事態に遭遇し、あるものは、すでに持っていた代謝系に若干の変更を加えることにより環境に適応したものへと進化していったと考えられます。様々な代謝系の修正により、あるものはC4型へと分化してきましたが、結果として、その修正法はPEPカルボキシラーゼを利用するものでした(細かく見ればC4型にもいろいろなバリエーションがあります)。植物が互いに情報交換をしたわけでもないのに、対応方法は、すでに持っている潜在能力を修正したC4型という結果が、全体として同じような方向だったといえましょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-03-17