一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物のウイルス病について

質問者:   高校生   福岡
登録番号4665   登録日:2020-03-14
僕は洋らんを育てることを趣味としているのですが、洋らんに限らず植物ではウイルスによる汚染が問題となっています。
人を含む動物はタミフルのような薬でウイルスを不活性化できますが植物では個体の更新でしか除去出来ません
私はこの植物と動物の差はなぜ生じるのか興味をもち調べてみましたが回答に出会うことができなかったので質問させていただきました
質問

なぜ植物のウイルス病には動物のように
特効薬がないのでしょうか

回答お願いします


福岡 さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
動物でも植物でもウイルスが病原体となる病気は大きな問題です。ウイルスにはいろいろな型がありますが、植物に感染する植物ウイルス、動物に感染する動物ウイルスと大別されてはいます。植物ウイルスが動物に、動物ウイルスが植物に感染することは殆ど知られていないので、感染(細胞への侵入)の仕方が両者で大きく違っていると思われます。
回答は東京大学大学院 渡邊雄一郎先生にお願いしました。

【渡邊先生のお答え】
ご指摘通り植物のウイルス病についてウイルスの増殖を抑える特効薬はほとんど開発されていません。ウイルスが増殖する仕組みには共通点も多いので、植物ウイルス研究が進めば開発することはおそらく可能です。ただ研究があまりされていない理由がいくつかあると思います。
植物ウイルスの多くは特定の昆虫、例えばアブラムシ、アザミウマや菌類によって媒介されます。そのため実際には既に開発されているような殺虫剤や抗菌剤などで害虫や菌類の駆除をすることで、植物ウイルスの感染を抑えることができるわけです。
人間社会との関係でみると、農業の場面では病気を防ぐことが主に行われ、いったん病気にかかった一部の植物が生産品からとり除かれているのが実態です。この他、ある作物の品種系統によっては遺伝的に抵抗性を示すものがあり、この性質を育種によって利用している場合もあります。抗ウイルス薬ができるにしても、開発のための費用の割に合わない農薬となるのかもしれません。
次にウイルスに対する植物、動物の違いから見てみます。動物で知られている体液性免疫(抗体を作る免疫)、細胞性免疫(白血球で病原体や感染細胞を除く免疫)といった仕組みは植物にはありません。植物でも病原体に対する免疫現象は知られていますが、動物と異なるのはいったんウイルスが植物内で増殖してしまうと、リンパ球などのような細胞がないので増殖したウイルスを駆逐、つまりなくすことができません。薬ができても増えてしまったウイルスが除かれるような病気の改善は望めないのです。それでは植物はどのように生き延びてきたかというと、ウイルスに感染した個体は死んでしまうが、他の個体は生き延びる。あるいはウイルスに感染していない組織から組織を再生させる能力などを生かして、種を維持してきたと考えられます。動物は一旦体が完成してしまうと、その体をその姿で維持するしかないのに対して、植物はある意味姿を変えるのですが、健全な細胞から個体を再生して種を維持していると考えられます。


 渡邊 雄一郎(東京大学大学院)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2020-04-06
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