一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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直角に曲がったグロリオサの雌しべについて

質問者:   会社員   T
登録番号4669   登録日:2020-03-22
花屋でグロリオサ を見た時にふと疑問に思ったので、質問させて頂きます。

グロリオサ の花は雌しべが直角に曲がっていて、とても不思議に感じました。
このような雌しべの形態は、何か生存や繁殖の際にメリットがあるのでしょうか。
なぜ進化の過程でこのような形になったのか、とても気になっています。
自分でも調べたのですが、詳しく分からなかったので質問させて頂きました。
よろしければご回答よろしくお願いします。
T様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
種子植物で、両性花(一つの花に雌性器官の雌しべと雄性器官の雄しべをもつ花)をつける植物はたくさんあります。両性花では一つの花に雌しべと雄しべがそろっており、自家受精ができるのではと思われるにも拘わらず、いろいろな仕方で他家受精を促進する機構を発達させている花が多く見られます。自家受精によって均一な遺伝子組成をもつ子孫より、他家受精によって多様な遺伝子組成をもつ子孫の集団の方が、いろいろな生態的な条件下で種を維持するのに有利だからと考えられています。
他家受精を促進する機構としては、雌しべと雄しべの成熟時期をずらす、雄しべと雌しべの空間的配置を受精しにくくする、自分の花粉が雌しべの柱頭では発芽できないようにする(自家不和合)などが知られています。

グロリオサ (Gloriosa superba) は自然界では種子ができにくいことが知られています。自家不和合性はありませんので自家受粉は可能ですが、咲いたばかりの花は雄しべが上部に屈曲し、雄しべの葯と雌しべの柱頭との距離があるので自家受粉が起こりにくいということがひとつの理由として考えられています。また、大型の花で葯と柱頭が離れていますので小型の昆虫による花粉の媒介(他家受精)が難しいことも理由として考えられています。嘴の長い鳥やマルハナバチが訪花し、他家受粉に寄与していること知られています。日時が経つと葯と柱頭が近接し、自家受粉がおきますが、その時には受精の効率が低くなっているのも種子のできにくい理由として考えられています。

今年に入ってからですが、南アフリカの野生のグロリオサの受粉の生態学的な研究結果が報告されました。その報文によりますと、訪花者の90%以上がEronia cleodoraを主とする蝶で、蜜を吸うときに運んできた花粉を柱頭につけます。開花初期に柱頭についた花粉と蝶の羽の鱗片数に正の相関があるそうです。また、花糸は周囲のより開けた方向を向いており、蝶もその方向から飛来するようです。花糸の屈曲が他家受精を促進する機構と考えられています。



庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-03-28
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