一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オーキシンを含む寒天の作り方

質問者:   高校生   はるちゃん
登録番号4674   登録日:2020-03-26
小学生の頃、このコーナーに質問をして柴岡弘郎先生にお世話になりました。それがきっかけで植物の研究を継続しています。ありがとうございました。

植物のオーキシンの流れを寒天を使って調べたいと思いました。実際にオーキシンを含む寒天を植物に付着させることにしました。調べてみるとオーキシンは水に難溶と書いてありました。そこでエタノールでオーキシンを溶かして寒天を作ってみました。しかしそれは植物の成長にアルコールが影響してしまうのではないかと思いました。
どうすればオーキシンを寒天に含ませることができますか?

よろしくお願いします。
はるちゃん さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
このコーナーへの質問から植物に興味を持たれ研究をされているとのこと。とても嬉しい話です。将来植物研究者を目指して下さい。
現在では「オーキシン」はインドール-3-酢酸(IAA)と同じように植物細胞の伸長成長を促進する物質の総称として使われています。実際に植物にある主要なオーキシンはIAAですので、ここではIAAについてお答えします。
IAAは水に難溶と言うことで水溶液の作り方に普通2つの方法が使われています。1つはご質問にあるように、まず少量のエタノールに溶かしてから水で希釈して所定の濃度にする方法、2つ目は、少量の水に懸濁しておいて、水酸化カリウム(または水酸化ナトリウム)などで中和して(完全に溶ける)から所定の濃度になるよう水を加える方法です。
どのような実験のためオーキシンを使用するかによって濃度が違いますが、植物を対象とする実験では非常に薄い濃度(1ppm以下)で使用しますからアルコールや中和に用いたアルカリの濃度はほとんど植物には影響のないほどの低濃度になります。どちらの方法でも問題はありません。私はすぐに水に溶かせるインドール酢酸カリウム塩(販売されています。IAAを水酸化カリウムで中和したものです。)を使っていました。IAA溶液は長期間保存できない(徐々に酸化していくため)ので使用の都度カリウム塩を秤量して常に新鮮な溶液を使っていました。
寒天にIAAを含ませる方法は、人によってはゲル化した(固まった)寒天をIAA溶液に浸漬して自然に浸透させる方法をとることもありますが、このときは寒天片を出来るだけ小さく、オーキシン溶液を多めにすることが必要です。寒天への染みこみは意外と遅いので一晩は冷蔵庫内に放置する必要があり、あまりお勧め出来ません。
私が使っていた方法は、2%程度の寒天(粉寒天)溶液を作ります。加熱してよく溶かし、放置して60℃程度まで冷やします。寒天はまだ凝固しません。使う濃度の2倍濃度にしたオーキシン水溶液と生暖かい寒天溶液を等量混ぜ合わせます。寒天内の水(98%が水ですね)で希釈されますので、最終的に1%寒天に予定濃度のIAAをふくむことになります。これをペトリ皿などへ移して自然に凝固させると薄い寒天板が出来ますから、カミソリ等で必要な大きさに切って使用します。寒天内の水に含まれるオーキシンの濃度は予定した濃度で、これを植物切片に付着させれば予定した濃度のオーキシンを与えたことと同じ効果が得られます。
何度か試行錯誤する間に、手順に慣れて上手くできるようになります。懲りずに頑張って下さい。


今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-03-30