質問者:
一般
長井 惠子
登録番号4679
登録日:2020-04-02
お世話になります。我が家の庭にクローバーが生えています。広さは1㎡くらいなのですが、三つ葉以外の葉が結構あります。四つ葉はもちろんたくさんありますが、一つ葉、二つ葉、五つ葉、六つ葉もあります。そんな中、一つ葉と二つ葉が一本の茎に出来ているものを見つけました。一本の茎が途中で枝分かれし、それぞれの先に一つ葉と二つ葉が付いています。これは珍しい現象なのでしょうか?
クローバー
長井 惠子
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
追加質問登録番号4684と合わせてお答えします。ただしクローバーの小葉の多葉性は飼料や緑肥といった有用形質とは関係ないため研究が少なく「あまり判っていない」のが実情です。以下の回答は、塚谷裕一先生(東京大学大学院理学系研究科)からご意見をいただいてまとめましたが、他のモデル植物で得られた知見に基づいた推測が含まれていることをご承知ください。
クローバー(シロツメクサ)類は匍匐茎で平面的に成長し、この匍匐茎の節から葉、根、匍匐茎の枝が出ます。クローバーの葉はこの節から直接出たもので、葉身は通常3枚の小葉(頂小葉1枚、側小葉2枚)からなる複葉です。
ここで、以下のお答えをご理解いただくために、葉や小葉、枝がどのように形成されるか簡単にご説明しておきます。植物はもともと1本の軸として成長し、一端は茎、他端は根となります。軸の両端に先端成長組織(メリステム)と言う未分化の細胞塊(何にでも分化できる)があります。葉、枝、側根などは中心軸からの枝分かれしたものです。そのため葉、枝、側根などは側器官とよばれ、先端成長組織の限られた場所から形成されはじめます。この限られた場所とは、そこに内生植物ホルモンであるオーキシンが局所的に集中分布するところです。言い換えれば、先端成長組織の中でオーキシンが局所的に集まる場所に葉(小葉も含む)とか枝の原基ができはじめます。
クローバーでは匍匐茎から分かれた葉の原基の中で葉柄が分化し、葉柄の最先端に葉身原基が残ります。葉柄は伸長し、葉身原基から小葉原基が分化します。葉身の下にある茎のように見え、匍匐茎の節からでる細長い組織は「茎」ではなく「葉柄」です。小葉の基部にもごく短い小葉柄がありますが頂小葉の小葉柄は側小葉柄より少しばかり長いものもあります。葉原基内に集中分布するオーキシンの場所が多ければ、それだけ小葉数が多くなることになります。
小葉の数が変化(オーキシン分布の様相が変化)するのにはいくつかの要因があるようです。葉原基の物理的傷害(足で踏まれた場合など)、栄養条件(リン酸、窒素、カリウム等の量比や多施肥量)や植物ホルモンを含む化学薬品などの影響、遺伝子変異(突然変異)によるもの、などがあるようです。ガンマー線照射や変異原薬剤による小葉数の増加の報告はいくつかあり、遺伝子変異がおきて小葉数が増加した形質は遺伝的に固定されたものもあります。園芸品種として市販されている4つ葉のクローバー品種はその例です。1つ葉形成について、かなり大がかりに調査した結果として1938年の米遺伝学雑誌に1つ葉形成に関する論文がありました。米国各地のシロツメクサ種子を発芽させたところ1万株のうち1株だけ1つ葉の株が見出された。この株から挿し穂で殖やした3個体のほとんどの葉は1つ葉であったがごく低頻度で異常な2つ葉や3つ葉も混ざる、と言うものです。1つ葉の状態もいろいろあり、著者の解釈では、小葉原基の発生抑制の観点で説明できるとしています。この発生抑制説は現在では内生オーキシン分布の異常(変化、間違い)として解釈できます。シロツメクサ小葉数の変化も葉原基内にできるオーキシンの局所的分布の変化に基づくとするものです。器官形成を司る制御系の異常(間違い)ですから自然の状態で発生する頻度は決して高いものではありません。
まえおきが長くなりました。ご質問に対応していきます。「茎」とあるのは「葉柄」と読み替えます。
1)「一本の茎が途中で枝分かれし、それぞれの先に一つ葉と二つ葉が付いている」
1つ葉も2つ葉もともに葉柄があるのかどうか判りかねますが、葉の原基内で分化した葉柄が伸びるのでその途中で葉原基が何らかの調節異常(オーキシン局所分布の間違い)をおこして枝分かれし、それぞれの葉原基の一方では小葉原基形成に必要なオーキシンの集中分布が一カ所、他方では二カ所となるように変化したと解釈できます。
2)「一本の茎が途中で枝分かれして、それぞれの先に二つ葉、二つ葉が付いているもの」
上記1)と同じですが、分かれた両方でオーキシンの局所的分布が2カ所に限られたものともみられます。
3)「枝分かれせずに二つ葉の下に少し離れて一つ葉が、一つ葉の下に少し離れて一つ葉が付いているもの」
状態は、1本の葉柄の最先端が2つ葉、途中に1つ葉、一番下に1つ葉と言うことだと思います。このようなことが起こる頻度はたいへん低いと思われますが、オーキシンの局所的分布場所の異常変化で説明すると次のことが考えられます。もともと4つ葉の株(遺伝的に固定された株)で、葉柄成長の途中で小葉発生に必要なオーキシン分布が1カ所となり小葉(最下位の)ができる、残りの組織はそのまま葉柄を伸ばし、ある時点で再びオーキシン分布箇所が1つできる(ここでまた中間の小葉ができる)、さらに残りの組織の葉柄が伸長して最後に2カ所のオーキシン局所分布がおきて2つ葉となる。あるいは、通常の3つ葉の株であれば、小葉発生のためのオーキシン局所分布が1カ所となる異常が2度おこり、最後で再び異常(間違い)がおきてオーキシンの局所分布が2カ所できたものとも説明はできますがかなり無理を感じます。
4)「小さな群生に多様な葉が出現するのはなぜでしょう?」
確かなことは判りませんが、遺伝子変異によるものであるときにはこの変異の程度が弱くいろいろな形質が発現する場合、また環境要因もあるかも知れません。土壌中の栄養塩類の異常蓄積、農薬類(変異原を含む)の残留、局地的高温や低温、強風(飛んできた砂粒などによる傷害)、あるいはそれらの影響を受けた異常株の種子が何らかの原因で散布された、などなど考えられますがその証拠を得るにはさらなる解析が必要です。
なお、このコーナーにはクローバーについてたくさんの話題があります。“クローバー“で検索してみてください。そのうち、登録番号0624はこのご質問と関連があり
ます。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
追加質問登録番号4684と合わせてお答えします。ただしクローバーの小葉の多葉性は飼料や緑肥といった有用形質とは関係ないため研究が少なく「あまり判っていない」のが実情です。以下の回答は、塚谷裕一先生(東京大学大学院理学系研究科)からご意見をいただいてまとめましたが、他のモデル植物で得られた知見に基づいた推測が含まれていることをご承知ください。
クローバー(シロツメクサ)類は匍匐茎で平面的に成長し、この匍匐茎の節から葉、根、匍匐茎の枝が出ます。クローバーの葉はこの節から直接出たもので、葉身は通常3枚の小葉(頂小葉1枚、側小葉2枚)からなる複葉です。
ここで、以下のお答えをご理解いただくために、葉や小葉、枝がどのように形成されるか簡単にご説明しておきます。植物はもともと1本の軸として成長し、一端は茎、他端は根となります。軸の両端に先端成長組織(メリステム)と言う未分化の細胞塊(何にでも分化できる)があります。葉、枝、側根などは中心軸からの枝分かれしたものです。そのため葉、枝、側根などは側器官とよばれ、先端成長組織の限られた場所から形成されはじめます。この限られた場所とは、そこに内生植物ホルモンであるオーキシンが局所的に集中分布するところです。言い換えれば、先端成長組織の中でオーキシンが局所的に集まる場所に葉(小葉も含む)とか枝の原基ができはじめます。
クローバーでは匍匐茎から分かれた葉の原基の中で葉柄が分化し、葉柄の最先端に葉身原基が残ります。葉柄は伸長し、葉身原基から小葉原基が分化します。葉身の下にある茎のように見え、匍匐茎の節からでる細長い組織は「茎」ではなく「葉柄」です。小葉の基部にもごく短い小葉柄がありますが頂小葉の小葉柄は側小葉柄より少しばかり長いものもあります。葉原基内に集中分布するオーキシンの場所が多ければ、それだけ小葉数が多くなることになります。
小葉の数が変化(オーキシン分布の様相が変化)するのにはいくつかの要因があるようです。葉原基の物理的傷害(足で踏まれた場合など)、栄養条件(リン酸、窒素、カリウム等の量比や多施肥量)や植物ホルモンを含む化学薬品などの影響、遺伝子変異(突然変異)によるもの、などがあるようです。ガンマー線照射や変異原薬剤による小葉数の増加の報告はいくつかあり、遺伝子変異がおきて小葉数が増加した形質は遺伝的に固定されたものもあります。園芸品種として市販されている4つ葉のクローバー品種はその例です。1つ葉形成について、かなり大がかりに調査した結果として1938年の米遺伝学雑誌に1つ葉形成に関する論文がありました。米国各地のシロツメクサ種子を発芽させたところ1万株のうち1株だけ1つ葉の株が見出された。この株から挿し穂で殖やした3個体のほとんどの葉は1つ葉であったがごく低頻度で異常な2つ葉や3つ葉も混ざる、と言うものです。1つ葉の状態もいろいろあり、著者の解釈では、小葉原基の発生抑制の観点で説明できるとしています。この発生抑制説は現在では内生オーキシン分布の異常(変化、間違い)として解釈できます。シロツメクサ小葉数の変化も葉原基内にできるオーキシンの局所的分布の変化に基づくとするものです。器官形成を司る制御系の異常(間違い)ですから自然の状態で発生する頻度は決して高いものではありません。
まえおきが長くなりました。ご質問に対応していきます。「茎」とあるのは「葉柄」と読み替えます。
1)「一本の茎が途中で枝分かれし、それぞれの先に一つ葉と二つ葉が付いている」
1つ葉も2つ葉もともに葉柄があるのかどうか判りかねますが、葉の原基内で分化した葉柄が伸びるのでその途中で葉原基が何らかの調節異常(オーキシン局所分布の間違い)をおこして枝分かれし、それぞれの葉原基の一方では小葉原基形成に必要なオーキシンの集中分布が一カ所、他方では二カ所となるように変化したと解釈できます。
2)「一本の茎が途中で枝分かれして、それぞれの先に二つ葉、二つ葉が付いているもの」
上記1)と同じですが、分かれた両方でオーキシンの局所的分布が2カ所に限られたものともみられます。
3)「枝分かれせずに二つ葉の下に少し離れて一つ葉が、一つ葉の下に少し離れて一つ葉が付いているもの」
状態は、1本の葉柄の最先端が2つ葉、途中に1つ葉、一番下に1つ葉と言うことだと思います。このようなことが起こる頻度はたいへん低いと思われますが、オーキシンの局所的分布場所の異常変化で説明すると次のことが考えられます。もともと4つ葉の株(遺伝的に固定された株)で、葉柄成長の途中で小葉発生に必要なオーキシン分布が1カ所となり小葉(最下位の)ができる、残りの組織はそのまま葉柄を伸ばし、ある時点で再びオーキシン分布箇所が1つできる(ここでまた中間の小葉ができる)、さらに残りの組織の葉柄が伸長して最後に2カ所のオーキシン局所分布がおきて2つ葉となる。あるいは、通常の3つ葉の株であれば、小葉発生のためのオーキシン局所分布が1カ所となる異常が2度おこり、最後で再び異常(間違い)がおきてオーキシンの局所分布が2カ所できたものとも説明はできますがかなり無理を感じます。
4)「小さな群生に多様な葉が出現するのはなぜでしょう?」
確かなことは判りませんが、遺伝子変異によるものであるときにはこの変異の程度が弱くいろいろな形質が発現する場合、また環境要因もあるかも知れません。土壌中の栄養塩類の異常蓄積、農薬類(変異原を含む)の残留、局地的高温や低温、強風(飛んできた砂粒などによる傷害)、あるいはそれらの影響を受けた異常株の種子が何らかの原因で散布された、などなど考えられますがその証拠を得るにはさらなる解析が必要です。
なお、このコーナーにはクローバーについてたくさんの話題があります。“クローバー“で検索してみてください。そのうち、登録番号0624はこのご質問と関連があり
ます。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-04-15