一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ローズマリーの白い玉

質問者:   その他   PenguinAqua
登録番号4703   登録日:2020-04-24
庭に生えている、ローズマリーの葉の裏をマイクロスコープで見てみました。
驚きの光景が広がっていました。
白(透明?)くて細い糸のような繊維が沢山有り、
そのモケモケの絨毯の様な中に、白い綺麗な球状の白い玉がいくつも着いています。
・この白い玉は、何ですか?
・そして、どんな役割を持っているのですか?
匂いの玉かと思い、他の種(レモンバーム、ミント、オレガノ)も見てみたのですが、有りませんでした。透明な毛は生えていました。
・匂いはどこから出てくるのですか?

お忙しい中恐縮ですが、宜しくお願い致します。
PenguinAqua様

 植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

 ハーブとして利用される植物をいろいろ栽培されておられるだけでなく、拡大鏡を使って観察もされておられるのですね。質問内容から、ローズマリーの葉の裏を観察された時の感動が伝わってきて、私も嬉しくなりました。
 ハーブの香りは、精油という、特有な香りをもつ揮発性油状の物質の混合物によります。精油をつくる揮発性油状物質の種類、濃度、組み合わせが植物によって異なることによって、それぞれのハーブ独特の香りになります。例えば、ミント(ハッカ)はメントールという物質が主ですが、ローズマリーでは、カンファ―、ボルネオール、ロスマリン酸などが含まれます。葉をこするとマツの香りがしますが、これはマツに含まれるα-ピネンという物質を含んでいるからです。レモンバームのレモンの香りは、ミカン科のレモンに含まれるシトラールという物質が、レモンバームの精油に含まれることによります。精油を作る植物でも精油を作り蓄積する場所が異なります。ショウガ科の植物は特定の細胞内に、ミカン科やセリ科の植物では細胞と細胞の間に溜まります。シソ科の植物の場合は、葉や茎に存在する腺毛という特殊に分化した毛で合成、蓄積します。
 観察された植物はすべてシソ科の植物ですから、腺毛をもっていると期待されます。質問内容に書かれている記載から考えると、白く(透明で)て細い繊維状のものは、葉の裏の表皮細胞が分化して伸びだした毛で、白い球はやはり表皮細胞が分化してできた腺毛だろうと思われます。
 レモンバーム、ミント、オレガノでは白い球が見つからなかったとのことですが、植物によって腺毛の形、数、分布は異なりますので、注意深く観察されれば見つかるのではないかと思います。因みに、ハッカの葉の腺毛はよく植物形態学の教科書や薬用植物(生薬学)の教科書に載っています。葉の表側にあって、幾つかの細胞に分かれた平べったい球形(?)をしています。レモンバームも葉の表側にあります。
 質問内容に合った写真がないか、ネットで検索してみました。「ローズマリーの腺毛」というキーワードで検索した中にありました。非常に詳しい観察で、白い球の付き方までわかるのではないかと思います。
 http://www.technex.co.jp/tinycafe/discovery70.html をご覧になって、観察されたものと同じかどうか比べてみてください。
 最後に精油の働きですが、精油によっては、細菌の増殖を抑制する作用や昆虫に対して忌避効果を示すことが知られています。忌避反応は昆虫が食べてみようとする前にこの匂いで撃退する効果があると考えられています。害虫の天敵を誘引して、害虫を除去してもらうはたらきのある例も知られています。ローズマリーは地中海沿岸が原産の植物です。夏の高温、乾燥に耐えるのに、精油の蒸発が役にたっているという記載もあります。



庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-04-29