一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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たんぽぽの綿毛は飛んでも「綿毛」?

質問者:   自営業   窪田
登録番号4706   登録日:2020-04-29
先日、小学2年生になった双子の姪っ子とアニメを見ていた時に、あるシーンで綿毛がいくつか咲いてました。
その時、「あ!綿毛だ!」と姪っ子(妹の方)が言ったんです。それに対して別の姪っ子(姉の方)が「違うよ!飛んだら綿毛だよ!」と言ったんです。「どっちが正解なの?」と問われたのですが、
そんなこと考えたこともなかったので困ってしまいました。確かにどうなんだろう?と。
間違ったことを教えてもいけないので明確には答えず、その場は一緒になって「どうなんだろう?」と考えるに留まりました。

さて質問ですが、
綿毛は、茎についてる状態が「綿毛」なのか、飛んだらその一つ一つが「綿毛」なのか?別の名があるのか?
教えて頂きたいです。

宜しくお願いします。
窪田 様

 植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。形態学がご専門の千葉大学名誉教授 福田泰二先生のご意見を頂きながら、回答を作りました。

 最初に少し専門的なことになりますが、タンポポの花の構造と綿毛について説明します。タンポポの花と普通よんでいるのは、実は花の集りです。それぞれの花に花粉が付いて受精すると種子ができます。種子のように見えますが、子房が発達してできた乾いた果皮が種子を包んでいますので、実際は果実です。このような果実をそう(痩)果といいます。タンポポの場合、子房の外側に萼がありますが、その先端が伸びだして、冠毛(一般的には綿毛(わたげ)と呼ばれているもの)になります。カキやトマトの萼(へたの部分)は果実には含まれませんので、萼が発達した冠毛は厳密には果実の一部ではないと考えられます。しかし、タンポポの場合、飛散した時も冠毛と果実(痩果)は一体化しておりますので、冠毛も果実の一部であるという見方もできます。その場合は子房以外の部分が果実に加わったわけですから、冠毛を含めて全体が偽果ということになります。子房だけからできている果実は真果です。
 冠毛は小さな果実(種子)をぶら下げているように見えます。冠毛が風を受けると空中に舞い易いので、果実(種子)を遠くまで運び、成育する場所を広げるのに役立ちます。
 なお、冠毛を一般的には綿毛(わたげ)とよんでいますが、わたげ(綿毛)は専門用語ではありません。綿毛という専門用語は、葉などの表面を覆う表皮の細胞が分化して、長く伸びだした毛を指します。この場合の綿毛は、「わたげ」ではなく「めんもう」と呼ぶそうです。

 ところで、小学2年生に対する回答ですが、上記のようなことを理解するのは難しいだろうと思います。一般的に使われている、綿毛という用語をつかって、綿毛には下に種子(果実)がついていること、タンポポの場合は飛ぶ前も、飛んでいる時も同じであることを説明されたら如何でしょうか?飛ぶ前と飛んでいる時で綿毛は専門用語ではどちらも冠毛で、別名はありません。キク科の他の植物では、種子(果実)から綿毛(冠毛)だけが切り離されて飛ぶものもあります。その場合は、飛ぶ前と飛んでいるものは違うことになりますが、綿毛(冠毛)に種子(果実)がついているかいないかの違いです。綿毛には違いはありません。
 また、綿毛(冠毛)が種子を運ぶのに役に立っていることも説明されると良いと思います。
 姪っ子さんに、綿毛が飛ぶ前と飛んでいる時で同じか違うか考えたことに感心したとお伝え下さい。

 
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-05-07