一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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シロヤブケマンとムラサキケマンの混在株について

質問者:   その他   丘の道
登録番号4709   登録日:2020-05-02
4月26日、八王子や青梅、秩父方面によく見られるというシロヤブケマンを初めて家の近くで見付けました。相模原市南区の雑木林の道端です。そこでこの株を観察したところ、いくつか興味深いことが分かりました。

1)1つの株に白い花と通常の赤紫色の花が混在している(写真1)。5つの茎のうち3つがシロヤブケマンの花(写真2)、2つがムラサキケマンの花(写真3)を付けていた。根元をチェックしたところ、5つの茎は地面付近で分岐していた。
2)赤紫色の花は開花が進んでいるが、白色の花は遅れて開花している。開花時期に差がある。

4月30日、5月1日に現地を再訪問した結果、以下のことが分かりました。

4)赤紫色の花はすべて咲き終っていた。下の方から次々に蕾が出てシロヤブケマンの花が咲いてくるようであった。

5)最上部の方では実が成熟し触ると弾けて飛ぶ状態であった。

植物和名ー学名インデックスYListで調べると、ムラサキケマンとシロヤブケマンは別品種になっています(写真4)。

この2品種が混在した株はどのようにして生まれたのでしょうか?ムラサキケマンが元になってシロヤブケマンが派生して現れたのでしょうか(1つの株で別品種が同居?)。

仮の話ですが、これらの株では咲き始めはムラサキケマンが開花し、 それが終わる頃にシロヤブケマンが下の方に開花する時間差の咲き分け現象?のようなことが起こっているのでしょうか? だとすると、ムラサキケマンとシロヤブケマンは同一品種の色違いなのでしょうか?

これらについて教えていただけると幸いです。
丘の道様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。丘の道を散歩しながら植物を観察されておられるのですね。このように細かいことまで気がついて、疑問を持たれる態度に敬服いたします。ご質問の内容には生理現象というよりは分類学的な面があるように思いましたので、ケマンソウ亜科の系統学的研究をされた福岡教育大学教育学部教授福原達人先生にご回答をお願いしました。以下がその回答です。

【福原先生の回答】
質問と、質問者の撮影写真を拝見しました。
ムラサキケマンとシロヤブケマンの花色の違いは、質問者の方も述べられているように、ふつうは個体ごとに決まっていますし、地域や群落によりシロヤブケマンが多いところには多かったりしますので、色素合成系の遺伝的変異を反映していると考えられます。
ムラサキケマンの花色は一口に「紫」と言いますが、
(A)花冠先端部の濃い赤紫色
(B)花冠先端部以外の部分、特に後方に膨らんだ「距」の部分の淡い藤色
の2色があります(写真1・2)。「シロヤブケマン」は(B)が発現しないタイプで、(A)(B)とも発現しないタイプには「ユキヤブケマン」という別の呼称がついています。

ムラサキケマンの開花過程を観察していると、受粉(自家受粉が大半と考えられます)の後、花冠が萎れる前に花冠全体が(A)の赤紫色に変わることがあります(写真3)。困ったことに、常にではなく、変色が見られないまま花冠が萎れることもあります。質問に「4)赤紫色の花はすべて咲き終っていた」とあることから、シロヤブケマンで受粉後の変色がやや強めに起こったという説明が成り立ちます。質問者から提示の写真1枚目でも、下方の咲き終わった花に変色が始まっています。なお、受粉後に花色が濃く変化する現象は、それほど珍しいものではありません。
枝変わりの可能性は否定できませんが、変色説を支持する事実の方が多いと思いました。
ムラサキケマンは二年草(前年春に発芽し、ちょうど1年後に開花結実後、株全体が枯死)なので、2個体が同一箇所にたまたま生えることがあっても、痕跡が分からないほど完全に融合する可能性は低そうです。
花色の遺伝や発現についての知見を持っていませんので、現象論のみでお答えしました。


以上が福原先生からの回答ですが、もしシロヤブケマンがムラサキケマンと全く同一の株から分技しているのが確実ならば、そこで突然変異が起きたということもありえますが、頂いた情報、写真などからではなんとも言えません。むしろ回答で説明されているように、花の加齢による色変わりの方が一般的に起きることでしょう。そのような色変わりは、他の植物でも珍しいことではありません。本コーナー登録番号2418, 4539をお読みください。

写真1~4(質問者より)

写真1~4(質問者より)

写真1~3(回答者より)

写真1~3(回答者より)

福原 達人(福岡教育大学教育学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2020-05-11