一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トマトの葉の裏が紫色の理由

質問者:   大学生   くろ
登録番号4716   登録日:2020-05-06
大学校でトマトを栽培しているのですが、発芽したばかりの苗は葉の裏が全面紫色になっています。(表側は緑色です)本葉2.3枚目がでてくる頃にはだんだん薄くなりある程度の大きさになると紫色は全くなくなりました。
葉が紫色になる理由は、紫外線から葉緑体を守るためということは分かったのですが、なぜ葉の裏が紫色になるのかが分かりません。
紫外線から身を守るためなら、直接日が当たる表側が紫色にならなければ意味がないと思います。
なぜ葉の裏だけが紫色になるのか教えて下さい。
くろ 様

ご質問をありがとうございます。

トマト専攻とのこと、さすがに良く観察しておられると感心しました。トマトの胚軸や子葉などの幼器官は、紫外線を受けてアントシアニンを合成して紫色になると教科書には書かれていることが多いかと思います。なお、良く観察してみると、品種や栽培環境にもよりますが、場合によってはかなり生長した茎の部分に紫色が残っていることもあり、また、品種によっては果実にアントシアニンを蓄積することもあるようです(本質問コーナーの登録番号3726参照)。一般に、樹木の若芽や草木の芽生えがアントシアニンを蓄積して紫色を呈することは良く知られている事実で、その生理学的な意義は紫外線から身を守ることにあると説明されています。「葉緑体を守る」ためには成長した部分でも働いでくれるのが植物にとっては望ましいことですが、アントシアニンが紫外線からの防御に役立つのは若い組織に限られているのが実態かも知れません。紫外領域の光をも吸収するクロロフィルやカロテノイドなどの色素が蓄積して光合成の系(光に対する防御の仕組みも含めて)が十分に機能するようになった段階では、一般的な場合には、アントシアニンの合成は抑制されているものと思われます。

ところで、ハウスの光条件がどのようなものであるかが分かりませんが、当てられる光(紫外線を含む)に依存してトマトの芽生えはアントシアニンを合成するとともにクロロフィルなどの光合成色素の合成も進めているものと思います。この際、各色素の合成(蓄積)の速度は植物の部分によって違っているものと思われます。すなわち、アントシアニンが芽生えの地上部を構成するすべての部分の細胞に分布するように蓄積されて行くのに対し、植物体のこれからの生長を支える光エネルギーを集める色素としてのクロロフィルなどは光の受光面となる葉の表側の細胞に優先的に蓄積するように合成の反応が進むようになっていることが考えられます。このため、一時期、見たところ葉の表は緑色で裏は紫色に見えるのではないでしょうか。若葉の表面の緑の部分にはアントシアニンが存在していてもクロロフィルの色彩が濃いために紫色が見えなくなっている可能性はあるのと思います。紫外線に関して言えば、葉の裏面は表側に比べて直射光が当たりにくいにしても、地面などからの反射光(地面の素材や状態によりますが、直射の10%程度)は十分に当たりますので、幼植物にとっては前に挙げて理由からアントシアニンの蓄積が重要なことかと思います。



佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-05-12
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