質問者:
公務員
田中
登録番号4721
登録日:2020-05-09
鹿児島県霧島市の農業青年クラブでは鹿児島県の伝統大根「国分大根」の継承活動をしています。みんなのひろば
ダイコン属の自家不和合性について
花茎ちゅう台時期に他の園芸ダイコンと交雑しないように、採種用の個体(形質の選抜等します)を移植して、防虫ネットで選抜個体群の中で採種します。
桜島大根をはじめ、日本各地の伝統大根は自家種を採種します。
アブラナ科植物は自家不和合性を有しているという記事が様々な場面で見つけられるのですが。
ここでいう自家不和合性とは、「同一個体での不和合成がある」ということでしょうか?
ある程度、形質のバラツキがある郡内では、不和合成はあまりない、と考えれば良いのでしょうか?
それとも同一「種」でも遺伝的に雑駁な系統?(語彙が適するか不明)は自家不和合性が低いのでしょうか?
以上の観点を含め以下の2点についてご教授いただければ幸いです。
質問1:そもそもダイコン属の自家不和合性とはどの程度のものなのでしょうか?
同一個体でも異花では容易に交雑しうるとか、ある程度の目安のような数値や知見があるのでしょうか?
質問2:一般的なダイコン属の自家不和合性とは、同一個体で不和合成があるということで、非常に似通った形質(例えば同一品種)の別々の個体では容易に交雑しうるということでしょうか?
田中 様
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
自家不和合性というのは、同一個体内の花粉による受粉では受精が成立しない性質をいいます。この性質はS遺伝子という1遺伝子座の複対立遺伝子によって決められていることが分かっています。複対立遺伝子はシロイヌナズナでは100以上あり、S1, S2, S3, S4,---------などと表記されます。自家不和合性の植物では、めしべの柱頭と花粉で発現しているS遺伝子の型が同じであると認識されると、花粉の発芽や伸長が抑制され、受精が妨げられます。
自家不和合性には、配偶子型と胞子型の2つのタイプがあります。配偶子型には、ナス科、バラ科、マメ科、イネ科、ケシ科などの植物が、胞子型にはアブラナ科、キク科、ヒルガオ科、ナデシコ科などで見られます。ダイコンはアブラナ科植物ですので胞子型です。配偶子型は柱頭の遺伝子型に対する花粉の遺伝子型できまります。例えば、柱頭がS1S2型ですと、花粉がS1型あるいはS2型のものは自家不和合性を示します。胞子型では、花粉が作られる親の遺伝子型の影響を受けます。例えば、柱頭がS1S2型で、花粉の親個体がS1を含むS1S3型である場合、S1S3型からつくられた花粉のS1型もS3型も自家不和合性を示します。しかし、S3型の花粉でも、S1を含まないS3S4型の親から作られたものは自家不和合性を示しません。
以上のことをふまえて質問1への回答ですが、ある個体がS1S2型としますと、柱頭はS1S2型です。減数分裂を経て生じた花粉はS1型とS2型で、さらに花粉親の遺伝子型(S1S2)の影響を受けますので、自家不和合性を示します。同じ個体の他の花で作られた花粉も全く同じです。しかし、複対立遺伝子による自家不和合性は花の発育段階や環境要因の影響を受けます。蕾や開花後時間がたって老化がはじまると自家不和合性は失われます。また、高温条件下で自家不和合性が失われることもあります。
質問2は他個体の花粉はどうかということことですが、花粉を受け入れる個体の複対立遺伝子型を含まない個体で作られた花粉は自家不和合性を示しません。花粉を受け入れる個体の遺伝子型をS1S2としますと、S1とS2を含まない親個体から作られた花粉は自家不和合性を示さず、受精が可能です。集団の中の比率はいろいろですから一概には言えませんが、作られる花粉は大量ですから、一般的には容易に交雑できると考えて良いと思います。
なお、みんなのひろば植物Q&Aの登録番号4093 に自家不和合性についての詳しい説明があります。また、自家不和合性の分子機構については、登録番号0833, 3459で解説されています。他にも、「自家不和合性」で検索しますと多くの情報が得られると思います。
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
自家不和合性というのは、同一個体内の花粉による受粉では受精が成立しない性質をいいます。この性質はS遺伝子という1遺伝子座の複対立遺伝子によって決められていることが分かっています。複対立遺伝子はシロイヌナズナでは100以上あり、S1, S2, S3, S4,---------などと表記されます。自家不和合性の植物では、めしべの柱頭と花粉で発現しているS遺伝子の型が同じであると認識されると、花粉の発芽や伸長が抑制され、受精が妨げられます。
自家不和合性には、配偶子型と胞子型の2つのタイプがあります。配偶子型には、ナス科、バラ科、マメ科、イネ科、ケシ科などの植物が、胞子型にはアブラナ科、キク科、ヒルガオ科、ナデシコ科などで見られます。ダイコンはアブラナ科植物ですので胞子型です。配偶子型は柱頭の遺伝子型に対する花粉の遺伝子型できまります。例えば、柱頭がS1S2型ですと、花粉がS1型あるいはS2型のものは自家不和合性を示します。胞子型では、花粉が作られる親の遺伝子型の影響を受けます。例えば、柱頭がS1S2型で、花粉の親個体がS1を含むS1S3型である場合、S1S3型からつくられた花粉のS1型もS3型も自家不和合性を示します。しかし、S3型の花粉でも、S1を含まないS3S4型の親から作られたものは自家不和合性を示しません。
以上のことをふまえて質問1への回答ですが、ある個体がS1S2型としますと、柱頭はS1S2型です。減数分裂を経て生じた花粉はS1型とS2型で、さらに花粉親の遺伝子型(S1S2)の影響を受けますので、自家不和合性を示します。同じ個体の他の花で作られた花粉も全く同じです。しかし、複対立遺伝子による自家不和合性は花の発育段階や環境要因の影響を受けます。蕾や開花後時間がたって老化がはじまると自家不和合性は失われます。また、高温条件下で自家不和合性が失われることもあります。
質問2は他個体の花粉はどうかということことですが、花粉を受け入れる個体の複対立遺伝子型を含まない個体で作られた花粉は自家不和合性を示しません。花粉を受け入れる個体の遺伝子型をS1S2としますと、S1とS2を含まない親個体から作られた花粉は自家不和合性を示さず、受精が可能です。集団の中の比率はいろいろですから一概には言えませんが、作られる花粉は大量ですから、一般的には容易に交雑できると考えて良いと思います。
なお、みんなのひろば植物Q&Aの登録番号4093 に自家不和合性についての詳しい説明があります。また、自家不和合性の分子機構については、登録番号0833, 3459で解説されています。他にも、「自家不和合性」で検索しますと多くの情報が得られると思います。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-05-14