一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ブナは石灰岩を好むのか

質問者:   公務員   ヤマ
登録番号4722   登録日:2020-05-09
はじめまして。よろしくお願い致します。

登山が趣味で、その中でもブナの森を歩くのが好きです。
また、よく訪れる山地には石灰岩が多く分布しています。
ブナの分布についてインターネット上で調べていると、「ブナは石灰岩(石灰質の土壌)を好む」という記述をときどき見かけます。実際のところ、ブナが石灰岩の山によく分布する、あるいは石灰質の土壌を好む(よく生育する)といった特徴はあるのでしょうか。ご教授いただけますと幸いです。
ヤマ さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は生態学がご専門の寺島 一郎先生にお願いしました。

【寺島先生の回答】
「ブナは石灰岩土壌を好むか」というご質問、ありがとうございます。
風薫る5月、ブナの森を歩くと気持ちのいい季節です。
ひとくちに石灰岩土壌といっても、風化や溶脱の度合いによってその性質には大きな差があります。日本のように雨が多いと溶脱や風化がすすみやすいので、石灰岩そのもの性質があまり残っていないところもあるようです。植生学の教科書には、冷温帯では石灰岩土壌にササ類が生えにくく、下草は多年生の双子葉類になる傾向が指摘されています。暖温帯では、シイ、モミ、ツガ、クリが少なくなる一方で、アラカシ、イスノキ、海岸近くではウバメガシなどが多くなる傾向があります。ウバメガシといえば高級焼き鳥屋が使う備長炭の材料です。
日本の森林の土壌のほとんどは、pHが弱酸性の褐色森林土です。石灰岩土壌は弱アルカリ性であり、ここに好石灰岩植物が生育しています。もっとも、いわゆる好石灰岩植物には、このような土壌を好む植物だけではなく、他の植物が嫌う弱アルカリ性の石灰岩土壌に耐性がある(だけ)というものも含まれています。この具体例については、塚谷さんの解説「石灰岩地帯の植物について」をお読みください(登録番号0230)。
ヨーロッパでは、好石灰岩植物や嫌石灰岩植物がよく区別され、ヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)は、中欧以北では石灰岩土壌の地域によく分布するようです。ただし、南欧ではその傾向が顕著ではありません。ネットで検索すると、ヨーロッパブナは、limestone beech (石灰岩ブナ)などとよばれることもあり、limestone beech forest (石灰岩ブナ林)などという記載もあります。
https://eunis.eea.europa.eu/habitats/1094

植生学の教科書には、日本産のブナ(F. crenata)やイヌブナ(F. japonia)が、石灰岩土壌を好むという記載は見当たりません。日本で好石灰岩植物といえば、セメントで有名な秩父の山の尾根に生えるカバノキ科のチチブミネバリ、シダ植物のイチョウシダなどが有名です。
以下の図書はご参考になるとおもいます。
石塚和雄 編 「群落の分布と環境」 朝倉書店
山中二男 「日本の森林植生 補訂版」築地書館



寺島 一郎 (東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2020-05-18
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