一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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後天的に得た特性の遺伝

質問者:   自営業   タクミ
登録番号4725   登録日:2020-05-11
接木による台木の影響による性質の変化や、環境に純化したため得た耐寒性・耐暑性や、栽培者の努力により後天的に得た特性は次代に遺伝するのでしょうか?
タクミ様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

接ぎ木の台木に病虫害に抵抗性のある植物を用いることで、病虫害に弱い植物からの接ぎ穂の病虫害抵抗性を高めることがあります。これは、病虫害に抵抗性のある植物の台木から、病虫害に対する抵抗性を高める植物ホルモンが接ぎ穂へと運ばれたことによります。しかし、病虫害に抵抗性が高くなった接ぎ穂で出来た種子から成育した植物の抵抗性が高くなることはありません。また、長日植物である野生のタバコを長日条件で育て、その葉を短日性のタバコ(メリーランドマンモス種)に接ぎ木しますと、短日性のタバコが長日条件下で開花します。しかし得られた種子から成育した植物は長日条件下では開花しません。短日条件下で開花します。
室温で育てたインゲンマメやキウリの芽生えを5℃に移すと生存できませんが、12℃に4日間置いてから(馴化)、5℃に移すと生存できて、室温に移すことで種子を作ることができます。この種子から成育した芽生えは、5℃では生存できません。生存させるためには、やはり12℃の前処理が必要です。同様に、タマナ(キャベツ)のある品種では、-5℃の条件にさらすと5日で死滅しますが、予め0℃に5日間置くと、-5℃に耐えるようになります。しかし、この-5℃に耐える性質は次世代に遺伝しません。やはり0℃での前処理が必要です。また、ライムギは長日植物ですが、芽生えの時期に一定期間低温にさらされないと長日条件下でも開花しません。一定期間低温条件下に置いて長日条件で開花した植物の種子から成育した植物もやはり、低温に一定期間さらされないと長日条件に反応しません。長日条件下で開花したという変化は次世代に伝えられなかったことになります。
この他にもいろいろな例がありますが、接ぎ木の影響で得られた性質の変化や、環境に馴化したために得られた特性の変化など後天的に得られた特性は、通常次の世代に遺伝しません。
なお、病虫害抵抗性に関する接ぎ木の実験の詳しい説明は、植物Q&A 登録番号2700 を参照下さい。



庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-05-21