質問者:
教員
バロメッツ
登録番号4730
登録日:2020-05-15
初めまして。みんなのひろば
小学校理科における「発芽の条件」
小学校の教員として、初めて理科を担当することになりました。
5年理科で「植物の発芽や成長」を扱います。
インゲンマメの種子を使って、条件制御をして実験をしていき、「インゲンマメの種子の発芽には水・空気・適した温度が必要である」というまとめに至ります。教科書も、教材会社の作ったテストにも、インゲンマメの発芽を扱ったあとに「種子の発芽の条件は水・空気・適した温度」として、一般化してまとめています。
ここで、疑問が生じます。
インゲンマメの発芽実験でわかるのは、「インゲンマメの種子の発芽の条件」であり、「種子の発芽の条件」はわかりません。
さまざまな種子の発芽について調べていくと、光は一つの条件に思えます。
正の光発芽種子には光が必要。負の光発芽種子には光が不必要。ということは、光の有無は「発芽の条件」に含まれるのではないでしょうか。
もっとも、インゲンマメのように、関係しない種子もあるわけですが、野生の植物では、正の光発芽種子の方が多い、という記述が散見されます。
このようにいろいろ調べていて、種子の発芽の条件として、3つだけを教えるのは、誤りなのではないかと迷っています。
植物生理学のお立場では、「発芽の条件」はどのような説が通説なのか、ご教示頂けると幸いです。
バロメッツ 様
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
科学の立場は、事実の羅列ではなく、「一般化した説明」であると考えておられるものと思います。私も同じように考えます。この考えに従うと、説明(科学理論)は一つでも例外が見つかると捨て去られる運命にあることになります。この理由から、観察や実験で新しい事実を発見することの楽しみが生まれます。インゲンマメの種子の発芽に水・空気(酸素)・適した温度が必要であることが実験で確かめられたにしても、他の全ての植物について同じ結果が得られるかどうかは分からず、そもそも全てについて確認しつくすのは不可能だと思います。それにも関わらず、小学生の試験の問題で「水・空気・温度」と答えさせるのに疑問を懐かれるお気持ちは理解できます。
ところで、先人たちが蓄積した信じられる証拠によれば、植物の種子の発芽の条件は複雑で、いろいろなタイプがあるようです(通説)。例を拾うと、休眠中の種子の発芽には一定期間の低温を経験させる必要がある場合とか、ハスの種子のように殻(種皮)を砕いたり焼いたりしてやらないと発芽が始まらない場合など、問題の三条件には収まりきらない環境条件が要求される場合が数多くあります。空気について言えば、水田の水底に生えるタイヌビエのように酸素濃度が非常に低い条件下でも発芽する場合(種子に蓄えた栄養物を発酵で分解してエネルギーを獲得するため)があるようです。
問題にされている光条件については、発芽に光(波長も関係して来ますが)を要求する光発芽種子、逆に暗黒の状態におくことを要求する暗発芽種子、光とは無関係に発芽する種子と、いちおう三種類に区別されます。しかし、相互には時として複雑な関連性があるようです。質問文に書かれているように、自然界には光発芽種子が多いのは事実のようですが(例えば、本Q/Aコーナー登録番号3214参照)、全ての植物の発芽に、ポジティブ(正)かネガティブ(負)のいずれかの形で、光が関係するとは言い切れないのが実態のようです。したがって、種子発芽に必須な環境条件として「光」を入れるのは適当ではないと思います。「水」・「空気(酸素)」・「適した温度」の三者については、発芽の生理のメカニズムを支えるものとして、普遍的に必要な外的な環境因子であることは確かだと思います。
最近の若者には「科学がきらわれる」傾向にあり、その原因の一つに小学校時代の理科教育があるのではないかと言われることがあります。初めて理科を担当されるとのこと、児童の心に観察や実験の楽しさを育ませてあげて下さるよう期待させていただきます。
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
科学の立場は、事実の羅列ではなく、「一般化した説明」であると考えておられるものと思います。私も同じように考えます。この考えに従うと、説明(科学理論)は一つでも例外が見つかると捨て去られる運命にあることになります。この理由から、観察や実験で新しい事実を発見することの楽しみが生まれます。インゲンマメの種子の発芽に水・空気(酸素)・適した温度が必要であることが実験で確かめられたにしても、他の全ての植物について同じ結果が得られるかどうかは分からず、そもそも全てについて確認しつくすのは不可能だと思います。それにも関わらず、小学生の試験の問題で「水・空気・温度」と答えさせるのに疑問を懐かれるお気持ちは理解できます。
ところで、先人たちが蓄積した信じられる証拠によれば、植物の種子の発芽の条件は複雑で、いろいろなタイプがあるようです(通説)。例を拾うと、休眠中の種子の発芽には一定期間の低温を経験させる必要がある場合とか、ハスの種子のように殻(種皮)を砕いたり焼いたりしてやらないと発芽が始まらない場合など、問題の三条件には収まりきらない環境条件が要求される場合が数多くあります。空気について言えば、水田の水底に生えるタイヌビエのように酸素濃度が非常に低い条件下でも発芽する場合(種子に蓄えた栄養物を発酵で分解してエネルギーを獲得するため)があるようです。
問題にされている光条件については、発芽に光(波長も関係して来ますが)を要求する光発芽種子、逆に暗黒の状態におくことを要求する暗発芽種子、光とは無関係に発芽する種子と、いちおう三種類に区別されます。しかし、相互には時として複雑な関連性があるようです。質問文に書かれているように、自然界には光発芽種子が多いのは事実のようですが(例えば、本Q/Aコーナー登録番号3214参照)、全ての植物の発芽に、ポジティブ(正)かネガティブ(負)のいずれかの形で、光が関係するとは言い切れないのが実態のようです。したがって、種子発芽に必須な環境条件として「光」を入れるのは適当ではないと思います。「水」・「空気(酸素)」・「適した温度」の三者については、発芽の生理のメカニズムを支えるものとして、普遍的に必要な外的な環境因子であることは確かだと思います。
最近の若者には「科学がきらわれる」傾向にあり、その原因の一つに小学校時代の理科教育があるのではないかと言われることがあります。初めて理科を担当されるとのこと、児童の心に観察や実験の楽しさを育ませてあげて下さるよう期待させていただきます。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-05-19