一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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卯の花とウツギの違いについて

質問者:   自営業   しゃちねこ
登録番号4745   登録日:2020-05-30
平安時代の本草和名に「楊盧木、空疏、宇都岐」和名抄に「溲疏、楊樝、宇豆木」とあります。
「空疏、溲疏」は「中空部を水液が流れる木」
「楊盧木、楊樝」は「水を吸い上げる」
「樝」はバラ科の鋭い刺のある木です。
つまり、
ウツギとは平安時代においては「幹や枝の中空部を揚水が流れる、鋭い刺のある木」となっています。
また、平安時代の枕草子二二二段には
「卯の花の垣根ちかうおぼえて、ほととぎすもかげにかくれぬべくぞ見ゆるかし。(中略)うつぎ垣根といふものあらあらしくおどろおどろしげに、さし出でたる枝どものおほかるに・・・」とあり
「卯の花」と「うつぎ」とは異なる木であり「刺のある木」であった事を示唆しています。

しかしながら
江戸時代の大和本草に
「(ウツギノ)花ヲ卯ノ花ト称ス」
和漢三才図会に
「卯の花は、宇豆木の花の略した言い方である」と書かれるようになって以来、「うのはな【卯の花】①ウツギの花」と書かれていることがあります。卯の花は木種として考えた時には「幹枝が中空である」という点での「空木」の意味以外は「ウツギの木」とは関係ないと思われ、同じ木とした江戸の学者の誤りと考えています。

現代の生物学的な木種の見解としてはどのようになっていますでしょうか。卯の花は刺のないものと認識していますが、「ウツギ」の「刺のある木」という点は考慮され分類されているのでしょうか。

ちなみに卯の花の名前の語源は「嫵之花」で「美しい花の咲く(木)」という意味です。
しゃちねこ様

 植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
 同じ植物種を、国によって、あるいは地域によって違う名前で呼ぶと混乱が生じます。それを避けるために、それぞれの植物種に世界共通の呼称をつけたのが学名です。命名規約では、学名はリンネが体系化した二名法を用い、ラテン語で表記することになっています。二名法とは、植物の種名を、属名(近縁な種をまとめた分類上の単位)と種小名(種の特徴を表記したもの)の組み合わせで表したもので、それが学名になります。学問的には、植物名は学名をつかわなければいけませんが、ラテン語になじみが薄い日本人にとっては、学名と同じように使える日本語の名称(和名)があった方が便利です。そのような目的で、学名と一対一になるように調整した和名を標準和名と言います。標準和名は日本国内では学名に準ずるものとして使われています。しかし、標準和名には、学名のような命名規約はありません。図鑑に記載されているものや学術雑誌など研究者間で慣習的に使われているものが標準和名になっています。
 学名がDeutzia crenataの植物が標準和名ではウツギです。別名がウノハナです。すなはち、ウツギとウノハナは同一の植物の標準和名ということになります。牧野日本植物図鑑でも、朝日百科シリーズ「植物の世界」でもウツギの解説に棘の記載はありません。

 なお、質問内容にウノハナには美しい花の咲く木という意味があると書かれていますが、方言で、旧暦の4月頃咲く美しい花であるコアジサイ、ガクアジサイ、ハコネウツギ、タニウツギなどをウノハナという地方があるそうです。また、ウツギとは平安時代においては「幹や枝の中空部を揚水が流れる、鋭い棘のある木」となっているということですが、中空部分を水が流れることはありません。中空部を囲むリング状の部分に維管束という水や養分が移動する組織があり、水はそこを通ります。
 質問と直接関係ありませんが、牧野日本植物図鑑で用いられている分類体系では、ウツギはユキノシタ科の植物になっています。しかし、ユキノシタ科にはいくつか性質の異なる植物群が混在しているということで、「植物の世界」で用いられた分類体系では、ユキノシタ科を分けて、ウツギはアジサイ科に属するとしています。DNAの塩基配列を用いた、最近主流となっているAPG分類体系でもアジサイ科を支持しています。
 牧野日本植物図鑑や「植物の世界」で用いられている分類体系やAPG分類体系については、登録番号4746をご覧下さい。


庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-06-08