一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

トウモロコシのデンプンについて

質問者:   その他   ふくやま
登録番号4752   登録日:2020-06-06
トウモロコシの胚乳に含まれるデンプンについて調べているなかで、軟質デンプンと硬質デンプンと呼ばれるデンプンがあることを知りましたが、それぞれの特徴や性質の違いがよく分かりません。
アミロースやアミロペクチンの含有量に差があるのでしょうか。
具体的に、分かりやすく教えてください。

質問の補足

現時点で理解していること、また疑問点について、下記にて記述させていただきます。

トウモロコシは胚乳中のデンプンの性質や構成によって分類されており、それぞれ利用法が異なります。
デンプンの性質や構成とは、硬質デンプンや軟質デンプンと呼ばれるデンプン粒の胚乳中における分布や割合のことです。
例えば、ポップコーンとフリントコーン、フラワーコーンでは、硬質デンプンと軟質デンプンの割合に違いがあります。
硬質デンプンは角質デンプンとも呼ばれており、軟質デンプンは粉質デンプンとも呼ばれています。
硬質デンプンや軟質デンプンとは、デンプン中のアミロースやアミロペクチンの存在比率に違いがあり、それぞれの分子量や分子構造の特徴によって物質的違いが生じていると理解しております。

調べていたのは、硬質デンプン(角質デンプン)と軟質デンプン(粉質デンプン)の物質的な違いです。
いくつか文献をあたってみましたが、硬質デンプンや軟質デンプンについて詳細に具体例等を挙げているものがみつからなかったため、ご質問させていただきました。
物理的な特性等に着目して、ご教示いただければ幸いです。
ふくやまさん

みんなのひろばへようこそ。
質問を歓迎します。
回答は光合成微生物のデンプン合成の研究が専門の鈴木英治博士(秋田県立大学生物資源学部生物生産科学科教授)にお願いしました。

【鈴木先生のご回答】
-- 「デンプン」という言葉は、世間では2つの意味で使われています。
 第1の用語は、化学物質としての「デンプン」で、多数のグルコース(ブドウ糖)が連結してできた化合物(グルコースのポリマー)の総称です。連結の種類には2種類があり、多数のグルコースが直線状に結合したものをアミロース、やや規則的に枝分かれして結合しているものをアミロペクチンといいます。コメを例にとると、アミロースを2割弱含むものは「うるち米」とよばれ、アミロース含量がこれより低いものは「もち米」と呼ばれます。タンパク質では、例えばニワトリの「卵アルブミン」というと、アミノ酸の種類、数、と連結の順序が厳密に決まっていますが、デンプンの場合は、コメを例にとっても、連結しているグルコースの数、枝分かれの位置や頻度にはばらつきがあり、分子集団としてどちらの傾向を示すものが多いかによって便宜的に区別されています。

第2の用語は、食品としてのデンプン粒です。デンプン粒は、一般に、貯蔵組織細胞の中の白色体(葉緑体と同じ起源です)がデンプンの他に蛋白質なども含んだもので、含んでいるアミロース、アミロペクチンやタンパク質の種類と量などによって、デンプン製品は様々な物理的性質を示します。

質問の硬質デンプンと軟質デンプンは第2の用語によるものです。トウモロコシの硬質デンプンと軟質デンプンの物質組成の違いについて、フランス国立農学研究所(INRA)(Gayral ら 2016)および中国青島大学(Zhang と Xu 2019)の研究事例があります。これらによると、硬質デンプンは軟質デンプンに比べ、タンパク質含量が高く、デンプン(グルコースのポリマー)含量が低い傾向にあります。タンパク質の種類としてはトウモロコシでは、胚乳の主要な貯蔵タンパク質の一つであるα-ゼインが、硬質デンプンでは軟質デンプンより量比が高くなっています。またデンプンの組成としては硬質デンプンでは軟質デンプンよりアミロースの存在比が高くなっています。これらの影響を受け、デンプン粒(顕微鏡下で見えるデンプンの粒子)の大きさは硬質デンプンの方が大きく、一方、膨潤力や結晶性は軟質デンプンの方が高くなっています。これらの理化学的性質を明らかにし、把握しておくことで、今後、それぞれのデンプンの特性に応じた利用法の選択が期待できることになります。


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-07-03