質問者:
その他
ぷぅ
登録番号4760
登録日:2020-06-12
ひと株の朝顔から咲き分けて白や赤、雀斑の花が咲いた時、自家受粉したとして翌年は白い花の種は白い花、赤い花の種は赤い花、雀斑の花の種は雀斑の花が咲くのでしょうか?もし、そうなら種を花色ごとに分ないと・・みんなのひろば
咲き分け朝顔の種採取ついて
それとも咲いた花色と種には関係がなく翌年も咲き分けるのでしょうか?
ぷぅ 様
このQ&Aコーナーをご利用くださりありがとうございます。ご質問にはアサガオの花色の遺伝現象についてお詳しい星野 敦先生(基礎生物学研究所)から下記の回答文を頂戴しました。参考になさってください。
【星野先生からの回答】
ぷぅ様が観察されたように、アサガオの雀斑変異体では、1つの株に(1)絞り模様(雀斑)の花、(2)有色(今回のご質問では赤色)の花、(3)白い花の3種類が咲きます。どの種類の花から採種しても、基本的には3種類の花が次の世代で咲きます。
ただし、まれに枝変わりをして本来は緑色の茎が全体的に赤くなることがあり、そのような茎に咲いた花から採種すると、次の世代で赤い花の株が出る可能性が高まります。もし採種してしまっても、赤い花の株は茎が赤いので芽生えの段階で区別がつきます。茎が赤い株は廃棄して、緑色もしくは緑色に赤い筋がある株を残して育てれば雀斑の花が咲くでしょう。以下に詳しく解説いたしますので参考になさってください。
雀斑は、花の色素であるアントシアニンの生合成に欠かせないDFR遺伝子に、トランスポゾンが挿入した劣性変異(a3-f)です。トランスポゾンは染色体上を移動する性質をもつ遺伝子で、この性質から「動く遺伝子」とも呼ばれます。雀斑変異体ではトランスポゾンによりDFR遺伝子の働きが抑制されているので、花弁細胞は白くなります。一方、赤い花弁細胞は、トランスポゾンが移動してDFR遺伝子が正常に働く野生型(A3)に戻るという変異(復帰変異と呼びます)が起きると現れます。また、この復帰変異が次世代に遺伝すると赤い花ばかり咲く株(復帰変異体と呼びます)になります。
ところで、植物の花や茎のおおもとは、茎の先端にある茎頂分裂組織です。この組織は3層構造をしていて外側からL1、L2、L3層です。花弁はL1層に由来する表皮細胞だけ着色することが一般的で、生殖細胞はL2層に由来します。アサガオの場合にはL2、L3層由来の花弁細胞も着色するのですが、表皮細胞の着色に隠れてしまっています。
しかし雀斑変異体では表皮細胞に着色がない、もしくは部分的にしか着色がないため、L2層由来の細胞の着色が観察できます。L2層由来の細胞が花弁全体で着色すると、全体に薄い赤色の花になります。また、アサガオの茎は赤いのですが、これもL2層由来の細胞にアントシアニンが蓄積するためです。雀斑変異体の茎は緑色ですが、復帰変異により赤い筋ができたり、枝変わりで赤い茎が生じたりします。赤い茎、すなわちL2層で復帰変異をした茎に付いた花(全体に薄い赤色の花、もしくはL1層も同時に復帰変異して赤い花)から採種すると、通常は3:1の割合で復帰変異体と雀斑変異体が分離します。この割合は、通常は復帰変異が片方の染色体だけで起きるために、メンデル則に従って赤い花(A3/A3、A3/a3-f)と雀斑(a3-f/a3-f)の遺伝子型が分離することによります。一方で緑色の茎に咲いた赤い花については、L1層由来の表皮細胞だけで復帰変異が起きている可能性が高く、そこから採種しても復帰変異体が出ることはまれです。もし復帰変異体が出たとしても、その株の茎は赤いので区別は容易です。ちなみに、雀斑変異体でL3層由来の細胞が復帰変異して着色すると、曜(星)の部分だけがうっすらと赤い花になります。
それから、雀斑変異体では白い花しか咲かせない株が現れることもあります。今から90年近く前に今井喜孝博士が、このような株を発見して「white variant」と名付けています。white variantの株から採種すると、次の世代もwhite variantである場合が多く、雀斑の花が咲くことは少ないとされています。運悪くwhite variantが現れてしまったら、そこから採取した種子ではなく、雀斑が咲いた親株やそのまた親株などの種子をまけば雀斑の株が出るはずです。white variantではトランズポゾンの移動する活性が抑制されています。この抑制にはエピジェネティクスと言って、変異とは別の仕組みで遺伝子の働きが変化して遺伝する現象が関与しています。詳細については今まさに研究中です。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。一般には販売されていない珍しい雀斑変異体を、ぜひ末長く可愛がってみてください。
このQ&Aコーナーをご利用くださりありがとうございます。ご質問にはアサガオの花色の遺伝現象についてお詳しい星野 敦先生(基礎生物学研究所)から下記の回答文を頂戴しました。参考になさってください。
【星野先生からの回答】
ぷぅ様が観察されたように、アサガオの雀斑変異体では、1つの株に(1)絞り模様(雀斑)の花、(2)有色(今回のご質問では赤色)の花、(3)白い花の3種類が咲きます。どの種類の花から採種しても、基本的には3種類の花が次の世代で咲きます。
ただし、まれに枝変わりをして本来は緑色の茎が全体的に赤くなることがあり、そのような茎に咲いた花から採種すると、次の世代で赤い花の株が出る可能性が高まります。もし採種してしまっても、赤い花の株は茎が赤いので芽生えの段階で区別がつきます。茎が赤い株は廃棄して、緑色もしくは緑色に赤い筋がある株を残して育てれば雀斑の花が咲くでしょう。以下に詳しく解説いたしますので参考になさってください。
雀斑は、花の色素であるアントシアニンの生合成に欠かせないDFR遺伝子に、トランスポゾンが挿入した劣性変異(a3-f)です。トランスポゾンは染色体上を移動する性質をもつ遺伝子で、この性質から「動く遺伝子」とも呼ばれます。雀斑変異体ではトランスポゾンによりDFR遺伝子の働きが抑制されているので、花弁細胞は白くなります。一方、赤い花弁細胞は、トランスポゾンが移動してDFR遺伝子が正常に働く野生型(A3)に戻るという変異(復帰変異と呼びます)が起きると現れます。また、この復帰変異が次世代に遺伝すると赤い花ばかり咲く株(復帰変異体と呼びます)になります。
ところで、植物の花や茎のおおもとは、茎の先端にある茎頂分裂組織です。この組織は3層構造をしていて外側からL1、L2、L3層です。花弁はL1層に由来する表皮細胞だけ着色することが一般的で、生殖細胞はL2層に由来します。アサガオの場合にはL2、L3層由来の花弁細胞も着色するのですが、表皮細胞の着色に隠れてしまっています。
しかし雀斑変異体では表皮細胞に着色がない、もしくは部分的にしか着色がないため、L2層由来の細胞の着色が観察できます。L2層由来の細胞が花弁全体で着色すると、全体に薄い赤色の花になります。また、アサガオの茎は赤いのですが、これもL2層由来の細胞にアントシアニンが蓄積するためです。雀斑変異体の茎は緑色ですが、復帰変異により赤い筋ができたり、枝変わりで赤い茎が生じたりします。赤い茎、すなわちL2層で復帰変異をした茎に付いた花(全体に薄い赤色の花、もしくはL1層も同時に復帰変異して赤い花)から採種すると、通常は3:1の割合で復帰変異体と雀斑変異体が分離します。この割合は、通常は復帰変異が片方の染色体だけで起きるために、メンデル則に従って赤い花(A3/A3、A3/a3-f)と雀斑(a3-f/a3-f)の遺伝子型が分離することによります。一方で緑色の茎に咲いた赤い花については、L1層由来の表皮細胞だけで復帰変異が起きている可能性が高く、そこから採種しても復帰変異体が出ることはまれです。もし復帰変異体が出たとしても、その株の茎は赤いので区別は容易です。ちなみに、雀斑変異体でL3層由来の細胞が復帰変異して着色すると、曜(星)の部分だけがうっすらと赤い花になります。
それから、雀斑変異体では白い花しか咲かせない株が現れることもあります。今から90年近く前に今井喜孝博士が、このような株を発見して「white variant」と名付けています。white variantの株から採種すると、次の世代もwhite variantである場合が多く、雀斑の花が咲くことは少ないとされています。運悪くwhite variantが現れてしまったら、そこから採取した種子ではなく、雀斑が咲いた親株やそのまた親株などの種子をまけば雀斑の株が出るはずです。white variantではトランズポゾンの移動する活性が抑制されています。この抑制にはエピジェネティクスと言って、変異とは別の仕組みで遺伝子の働きが変化して遺伝する現象が関与しています。詳細については今まさに研究中です。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。一般には販売されていない珍しい雀斑変異体を、ぜひ末長く可愛がってみてください。
星野 敦(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-06-17
佐藤 公行
回答日:2020-06-17