一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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0873「エチレンの測定について」に関する質問

質問者:   高校生   じゃがりん
登録番号4765   登録日:2020-06-18
初めまして。
リンゴが分泌するエチレンを用いたバレイショの芽の伸長抑制について、学校で研究を行っている者です。

以前、「エチレンの測定について」(登録番号0873、登録日2006-07-06、質問者 中学生 藤原あずさ さん)に対する今関英雅先生の回答で、「リンゴが発生する気体の中で他の植物に特殊な効果を示すものはエチレンだけだと言うことは証明されています」という一文を拝見し、その情報を自分の論文に引用したいと考えております。

自身でも検索してみたのですが、それを示すような論文にたどり着けていない状態です。
もし可能でありましたら、論文のタイトルまたは、検索時のキーワードになるような大まかな内容でも構いませんので、お教え頂けますでしょうか。

よろしくお願い致します。
じゃがりん さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
エチレン研究の歴史はいろいろな局面から始まっていますが、一致するところは「植物の成長現象に異常をもたらす気体成分を調べてみたら、いずれの場合もエチレンであった」と言うところからはじまっています。「パイナップルをはじめいろいろな果実が食べられるようになること(後熟)を促進する気体」「バナナやレモンの果実が黄色く熟する過程を促進する気体」「街路樹の葉が早期に落葉することを促進する気体」「エンドウの黄化芽生えの異常成長(茎の水平生長)をもたらす気体」「細胞の身長成長を抑制し、肥大成長を促進する気体」などなどの生理学的現象の解析からエチレンの植物成長現象に対する特異な効果が認識されるようになってきたものです。
一方、果実(主として果物)の成熟生理学の研究者達は、果実が肥大成長を終わり、後熟過程に入ると呼吸速度が一過的に上昇する型の果実(リンゴはその1つ)と呼吸上昇がおこらない型の果実(柑橘類)があり、呼吸上昇が起こる型の果実では、呼吸上昇の直前にエチレン生成がおこり、そのエチレンが呼吸上昇を誘発するが、呼吸上昇が起こり始めると二次的に多量のエチレン生成が起こる、と言ったことを明らかにしてきたものです。リンゴ果実は当然これらの研究の対象になったものの1つで、たくさんの研究者が同じことを多くの果実で確認してきたものです。したがって、誰が、何時、初めてリンゴを使ったのか、今では知りようがありませんが熟度の進んだリンゴ果実が生成し、発散する気体には芳香成分が含まれていますから、エチレン以外の物質が含まれていることは確かです。ジャスモン酸が含まれる可能性はありますが、生物検定でエチレンの生理効果に影響を及ぼすことは知られていません。私の知る限りではエチレンを生成する傍証はバナナにおいてもっとも早く記載されています。傍証としたのは、化学的あるいは物理的方法で同定されたのではなく、生物検定
において固有の効果を現すのでエチレンとされてきたからです。初めてエチレンの効果を調べたいと思う人たちはまず、対象植物とリンゴ切片を共存させてみることはお薦めできることです。
植物組織がエチレンを生成することの確証を始めて得たのがリンゴを用いた化学的研究です。
R.Gane, Production of ethylene by some ripening fruits. Nature vol.134, p.1008 (1934) です。
その後はガスクロマトグラフィーという物理的検定で同定、定量されています。



今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-06-22
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