一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花の感触につて

質問者:   会社員   T
登録番号4769   登録日:2020-06-20
先日、友人との会話で、友人の好きな花はシャクヤクで、理由は感触が柔らかくて気持ちいいからと言っており、自分には無い感性だったので感動しました。
その時ふと思ったのですが、花の感触を品種改良によって変化させることは現実的に可能なのでしょうか。
育種が進めば、最終的にはユリの様なしっかりとした硬さの感触の花を、シャクヤクの様な柔らかい感触の花に変えることはできるのでしょうか。
もし可能なのであれば、花だけに限らず野菜の葉や果物の食感など、多岐にわたり応用できる気がするのですが、その様な研究は行われているのでしょうか。
T様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問の主旨は植物の組織を柔らかい感触のものに変えることができるかということだと理解します。yes/noを答える前に、植物の「硬さ」という作りについて、基礎的なことを簡単に説明いたします。植物は動物のような体型を支える骨格という構造がなく、別の仕方で体型を維持しています。生物はすべて細胞が集まってできていますが、植物の細胞は一番外側が「細胞壁」という主としてセルロースとペクチンという物質で作られた、いわば外皮で囲まれています(登録番号4171を読んでください)。
細胞にはその働きによって色々種類がありますが、一つ一つの細胞はレンガのように積み重なり、組み合わさって植物体を作りあげています。細胞と細胞の間はペクチンが接着剤のような働きをして細胞をつなげています。草本植物では体を作っている細胞はいつも細胞内の液胞というコンパートメントに水をいっぱい貯め込んでおり、細胞を膨れ上がった状態にして体型を保っています。だから、水不足になると萎れてしまうのです。木本植物ではリグニンという物質が細胞壁に加わり、体全体を硬くしているのです。植物の組織が柔らかいかどうかは、細胞間の接着度がきわめて強固であるかゆるいかということが主な原因と考えていいでしょうが、葉や花弁などを触ってしなやかであるという感触は、表皮細胞の細胞壁自体が薄いとか、外面を覆っているクチクラやワックスの層が薄いということもありえます。野菜を煮ると柔らかくなりますが、これはペクチンが加熱によって溶けるため細胞接着が緩むからです。
さて、私たちの食事に供される植物や、鑑賞される園芸用植物は全て野生種から生まれてきたもので、様々な目的でそれにかなった形質をターゲットに時間をかけて品種改良してきたものです。その結果、例えば、元は同じ原種でも、花を改良してブロッコリーやカリフラワーができたり、葉を改良してキャベツやケールができたり、芽を改良してメキャベツができました。トウモロコシでも1万年前にはテオシントというとても貧弱な野生種だったのが、今では柔らかで甘い生で食べられるような品種まで作られています。花や果実についても同様です。
ということで、育種園芸の分野では、それが有用であり、また商品価値を生じるなら、様々な植物について様々な性質/形質が品種改良の対象となりえます。ご質問の柔らかい組織の植物を作り出すことに特化した研究がなされているかどうかはわかりませんが、例えばペクチンの量が少なくなるような品種を作るとか、クチクラ層が薄い品種を作ろうと思えばできるでしょう。また、実際に他の品種とくらべて柔らかくなっている野菜や果物の品種もあるようですが、これらがその目的で品種改良されたものかどうかは調べていません。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-06-25
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