質問者:
自営業
日親電設
登録番号4777
登録日:2020-06-27
ピートモスは有機酸を含むために酸性となる、ということですが、植物が何年も堆積した物質なのに、化学的な反応をして酸性となるのメカニズムがわかりません。みんなのひろば
ピートモスが酸性となる理由
石灰岩の土壌はカルシウムが少しずつ溶け出るのでアルカリ性を示すことは理解できますし、畑の土壌では、植物の出す有機酸や微生物の分解や炭酸ガスの影響で酸性になるということと理解しています。
ピートモスが有機酸を多く含むのというのは、ピートモスそのものが有機酸でできている?ということでしょうか?
ピートモスは完全に分解されるまで、長期間酸性になるのでしょうか?
上記の質問と重複するかもしれませんが、石灰成分で中和されたピートモスはカルシウムが流亡したり、植物がカルシウムを吸収すると、再び酸性になると理解してよろしいのでしょうか?
日親電設 さん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがたいへん遅れて申し訳ありません。整理上の手違いでご質問が放置されたままになってしまいました。
ご質問の主旨は1)何故ピートモスは酸性か、2)何故ピートモスは完全分解していないのか、の2点だと思います。
ピートは泥炭で、その成因は非常に特殊なものです。ピートモスの主体はミズゴケ属(Sphagnum属)で水の供給を雨水だけに頼っている湿地帯に生育し、茎と葉のみから構成されていますが、水中にある部分はすでに枯死した部分で、先端部のみが生きており水面上に顔をだし光合成によって成長しています。また、通常の植物のような根や通導器官が無いので先端部の成長は光合成と水から直接吸収する無機成分のみで支えられています。下部の死んだ部分は、上部の成長に必要な栄養供給には全く関与していないばかりでなく大量の水を保持する特性を持っています。水中の枯死した部分が沼の底に沈積し、ほぼ完全な無酸素状態で長年月をかけてゆっくりと泥炭化(mineralization)したものを採取したものがピートモスと言われるものです。したがって有機炭素、無機炭素、鉱物質とが共存した状態で多量の空隙水(pore water)を含みす。その原資はミズゴケの細胞壁で多量のゲル状ペクチン性物質を含んでいる特徴があります。ペクチン性物質は糖が酸化したウロン酸のポリマーで酸性物質です。ポリガラクチュウロン酸(ペクチン酸)はその代表例ですが他の糖が酸化したウロン酸類のポリマーなどもあり結果的に多量のウロン酸を含んでいることになります。ウロン酸のカルボキシル基の1部はメチルエステル化されていますが、遊離のカルボキシル基は解離してプロトンを出しこれらが酸性を示す主体です。同時にカルボキシル基が配位子となってカルシウムと錯体を形成しゲル化の主な原因ともなっています。細胞壁の主体である多くの多糖類は好気的条件では容易に微生物分解により腐葉土となり得ますが、細胞壁にはポリフェノール類やリグニンがありこれらは好気的分解を抑制する作用があります。しかしミズゴケの細胞壁にはsphagnanと呼ばれる固有のペクチン様物質があり、その存在がミズゴケ細胞壁の好気的分解を抑制することが実証されています。不思議なことに、リグニンやポリフェノール類はミズゴケ以外の細胞壁の好気的分解を抑制していますが、ミズゴケにおいてはそのような効果は無いようです。今のところsphagnanの化学的構造は明らかでありませんがミズゴケ細胞壁の微生物分解を抑制するので抗菌性があることになり、嫌気的条件下では細胞壁成分の非常にゆっくりとした泥炭化を支えていると考えられています。
ピートモスの酸性を中和する目的で加えた石灰成分(大部分は水酸化カルシウムー消石灰)は過剰量ですから、ペクチン酸のキレート結合しうる部位は最大に錯体を形成するはずです。錯体となった金属イオンはpHが変化しなければ安定で金属イオンの放出は極めて少ないはずですから植物が生育しうる範囲では流失することはないでしょう。したがって酸性に戻ることは無いと思います。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがたいへん遅れて申し訳ありません。整理上の手違いでご質問が放置されたままになってしまいました。
ご質問の主旨は1)何故ピートモスは酸性か、2)何故ピートモスは完全分解していないのか、の2点だと思います。
ピートは泥炭で、その成因は非常に特殊なものです。ピートモスの主体はミズゴケ属(Sphagnum属)で水の供給を雨水だけに頼っている湿地帯に生育し、茎と葉のみから構成されていますが、水中にある部分はすでに枯死した部分で、先端部のみが生きており水面上に顔をだし光合成によって成長しています。また、通常の植物のような根や通導器官が無いので先端部の成長は光合成と水から直接吸収する無機成分のみで支えられています。下部の死んだ部分は、上部の成長に必要な栄養供給には全く関与していないばかりでなく大量の水を保持する特性を持っています。水中の枯死した部分が沼の底に沈積し、ほぼ完全な無酸素状態で長年月をかけてゆっくりと泥炭化(mineralization)したものを採取したものがピートモスと言われるものです。したがって有機炭素、無機炭素、鉱物質とが共存した状態で多量の空隙水(pore water)を含みす。その原資はミズゴケの細胞壁で多量のゲル状ペクチン性物質を含んでいる特徴があります。ペクチン性物質は糖が酸化したウロン酸のポリマーで酸性物質です。ポリガラクチュウロン酸(ペクチン酸)はその代表例ですが他の糖が酸化したウロン酸類のポリマーなどもあり結果的に多量のウロン酸を含んでいることになります。ウロン酸のカルボキシル基の1部はメチルエステル化されていますが、遊離のカルボキシル基は解離してプロトンを出しこれらが酸性を示す主体です。同時にカルボキシル基が配位子となってカルシウムと錯体を形成しゲル化の主な原因ともなっています。細胞壁の主体である多くの多糖類は好気的条件では容易に微生物分解により腐葉土となり得ますが、細胞壁にはポリフェノール類やリグニンがありこれらは好気的分解を抑制する作用があります。しかしミズゴケの細胞壁にはsphagnanと呼ばれる固有のペクチン様物質があり、その存在がミズゴケ細胞壁の好気的分解を抑制することが実証されています。不思議なことに、リグニンやポリフェノール類はミズゴケ以外の細胞壁の好気的分解を抑制していますが、ミズゴケにおいてはそのような効果は無いようです。今のところsphagnanの化学的構造は明らかでありませんがミズゴケ細胞壁の微生物分解を抑制するので抗菌性があることになり、嫌気的条件下では細胞壁成分の非常にゆっくりとした泥炭化を支えていると考えられています。
ピートモスの酸性を中和する目的で加えた石灰成分(大部分は水酸化カルシウムー消石灰)は過剰量ですから、ペクチン酸のキレート結合しうる部位は最大に錯体を形成するはずです。錯体となった金属イオンはpHが変化しなければ安定で金属イオンの放出は極めて少ないはずですから植物が生育しうる範囲では流失することはないでしょう。したがって酸性に戻ることは無いと思います。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-09-10